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小説 鷹の口づけ


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パラレル 」
パラレル

教育実習生

2009.11.17  *Edit 

ファイはコーヒーショップに入るとマフィンとブルーマウンテンを注文した。椅子に背広の上着を架け腰掛ける。また先日の侑子先生の言葉が思い出された。
「ファイ先生にはクラス担任として指導教官になって貰います。教科は違うけど、ま、気にしないで。教科は草薙先生が見てくれるわ」
「ファイ先生、二人三脚で頑張りましょう」
草薙先生が手を差し出した。
「はい、よろしくお願いします・・・」
自信なさげに答えたファイを、草薙先生は笑い飛ばした。
「ハッハッハ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。担任を代わって貰う位の軽い気持ちでやるんです」
「はあ・・・」
草薙先生はそう言ったが、自分に実習生が付くなんて、初めてのことだ。ファイは不安で不安で仕方なかった。しかも相手は化学ではなく体育教師を目指す学生だ。ファイはどんな学生だろうと考えると、緊張が高まるばかりだった。
そして今日は教育実習が始まる日。
珍しく朝早く目覚めてしまったファイは、駅前のコーヒーショップで時間を潰しながら何とかして不安を鎮めようとしていた。始業に間に合うように時間を計算し、アラームをセットする。いつも嫌々乗っている地下鉄だが、こんな日はたった3つの駅でも混んだ電車の中なら変に悩まずに済むので反って良かったかもしれないとファイは思った。
コーヒーに砂糖を入れ、ミルクをたっぷり注ぐ。甘い香りを胸一杯に吸い込むと、ほんの少しだが不安が和らいだような気がした。


「コーヒー。ブラックでいい。あとこれも頼む」
サンドイッチとコーヒーを受け取り、黒鋼はコーヒーショップのテーブルについた。今日から教育実習が始まるから朝練はないと言うのに、ついいつもどおりの時間に起きてしまい、中途半端な時間になってしまった。そして一人暮らしの気儘さで、朝食を作るのも面倒だとコーヒーショップにやって来たのだった。
黒鋼はサンドイッチを頬張りながら、久しぶりに訪れる高等部を懐しく思い出していた。教わった先生方は元気だろうか。
ふと、向こうの壁際に座っている人物が目に入った。金髪がとても目立つ。白いスーツの上着を椅子にかけ、顎肘をついてガラスの向こうを歩く人々を眺めている。黒鋼は暫くの間なんとなく彼を見つめながらコーヒーを飲んでいた。
ピピピピッ
電子音が鳴り、彼はアラームを止めると立ち上がった。そしてトレイを片付けると店を出て行った。
「随分派手なヤツだったな・・・」
黒鋼は呟いた。自分も店を出ようと立ち上がった時、白いジャケットが椅子にかけたままになっているのに気がついた。ガラスの向こうを見るとちょうど彼が改札をくぐるのが見えた。黒鋼は急いでトレイを片付けると、上着を掴んで走り出した。
ピッと小気味いい音をさせて改札を通過し、左右を見回す。しかし金髪は見当たらない。
「ちっ、こうなりゃ適当だ!」
小さく舌打ちすると一番線ホームへと向かった。階段に差し掛かった時、ふわりとした金糸が目に入った。
「当たりだ!」
黒鋼はスピードを上げ階段を駆け降りた。


ファイはホームへの階段を降りると階段下に並んだ。何か物足りないような気がして首を捻った時、上着を忘れた事に気がついた。
「どうしよう・・・」
今取りに戻れば上着はまだ椅子にかかっているだろう。しかし店は改札の向こう側だ。ファイは迷っていたが、意を決して改札窓口で相談してみる事にした。
歩き出したその時、黒髪の青年がファイの前に飛び出した。紅い瞳に瞳が釘付けになる。そして彼はその手をファイへと伸ばした。
「あ、オレの・・・」
そこにはファイの白い上着があった。
「椅子に忘れていたんだ。会えて良かった」
「ありがとう・・・」
ファイが驚いてそれだけ言った時、電車が入ってきた。
「ありがとう、でもオレこの電車に乗らないと・・・」
ファイがそう言うと、青年はフッと微笑んだ。
「偶然だな」
ドキン!
なに?
ファイの心臓が音を立てて飛び跳ねた。
ドアから乗降客が流れ出した。二人は列に並び電車に乗り込んだ。
ルルルル・・・
ベルが鳴り、ドアが閉まると電車は発車した。
満員電車の中で黒鋼は金髪の男に向かって言った。
「何処まで?」
「学園前駅です」
「へぇ、偶然だな」
ファイは当惑した。学園前駅は堀鍔学園専用の駅だ。どう見ても彼は生徒ではないし、大学部の学生ならどこかで見ているはずだが、この真っ黒な大男は全く記憶に無かった。ただ立っているだけでこんなにも目立つほどカッコいいのに。
「あんた堀鍔学園の教師か? 今日から教育実習で世話になる。よろしく頼む」
黒鋼がそう言った時、ちょうど学園前駅に到着した。黒鋼は開いたドアから降りるようファイを促した。
「ねぇキミは何科なの?」
まさかオレの担当のコじゃないよねと内心思いつつ、ファイは歩きながら聞いてみた。
「体育だ」
「げ。キミが黒鋼君?」
思わずげとか言ってしまった。黒鋼は眉間の皺を増やし、不機嫌そうに言った。
「なんで判った?」
「あ、いや、体育の実習生は一人だって草薙先生が言ってたから」
しどろもどろ答えたファイに黒鋼は明らかに不審そうな眼を向けたが、草薙先生がずっと担任だったんだ、ボソリと言った。
「へぇ、そうなんだ? じゃラッキーだね、教科担当は草薙先生だよ」
「教科担当?」
黒鋼はおうむ返しに聞き返した。ファイは頷くと複雑な面持ちで説明を始めた。
教育実習には担任としての指導教員と教科担当の指導教員がいること。担任を持っている者がHRの指導に当たり、それぞれの教科担当の指導教員が授業の指導に当たること。時には指導教員が一人で両方を受け持つ事もあること。
「ふーん、なるほどな」
黒鋼は少し表情を緩めたが、すぐに詰問した。
「で、なんで 『げ』なんだ?」
「え? オレそんなこと言った?」
ファイはとぼけたが、黒鋼は重ねて詰問した。
「言っただろうが。なんでだ?」
「言ってませ~ん! もう、指導教官にその口の利き方はないんじゃない?」
「指導教官?」
「あ!」
ファイは明らかにしまったという顔をした。黒鋼は言った。
「なんだ、お前が担当か、よろしくな」
そんな話をするうちに学園に到着し、ファイは実習生が使う靴箱に黒鋼を案内すると言った。
「じゃ靴箱はここね。まだ朝会まで少しあるから草薙先生のところに行くといいよ。場所は判るでしょ?」
黒鋼は不機嫌そうな顔で口を開いた。
「・・・名前は?」
「え?」
「お前の名前だ」
ファイは暫くポカンとしていたが、すぐに思い当たった。
「あ、あぁ。そう言えば言ってなかったねー。ゴメンね、オレはファイ。ファイ先生って呼んでね~」
へにゃりと微笑んだファイは最後に付け加えた。
「オレは黒たん先生って呼ぶから~」
「はぁ? 何言ってんだ?」
ファイはヒラヒラと手を振りながら行ってしまった。
「ファイ、か・・。なんだってんだ・・・」
まさか本当に黒たん等と呼んだりしないだろうが、変なヤツだったなと首を振りつつ、黒鋼は体育教官室へと向かった。



END





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