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小説 鷹の口づけ


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堀鍔学園」
堀鍔学園(つづきもの)

アプローチ その1

2012.04.28  *Edit 

プロローグ

新しい世界。
まさに堀鍔学園はその言葉がピッタリだ、とユウイは思った。こんなに小さな島国にこんなにも大きな学園都市。そして魅力的な人々。
理事長の侑子先生はお酒が大好きで、いたずらも大好き。そう言えば不思議な魅力を持った彼女はこう言っていた。
「平和は適度に乱すけどね」
ほんの少しだけなら、いいだろうか。
ファイの邪魔をしないように、と思っていたけれど。もう、心に嘘を吐けそうにない。
「双子は色々と複雑だから」
思わず本音を言ってしまったおれに、小龍君は言った。
「そっちもね」
その言葉が、ずっと心から離れなかった。
本当の気持ちを伝えてもいいだろうか。
あの人はファイのものだけれど。
腕を掴まれたあの時、心臓が止まるかと思う程の衝撃を受けた。
力強い腕で助け起こされた時、胸に飛び込みたい衝動を抑えるのに必死だった。
ファイの大事な人だけれど、おれも、彼が、好き。 
もしも同じ時に出会っていたなら、などとは考えない。
過去は変えられない。だから、未来を変えよう。
おれは彼を、必ず手に入れる。


その1

「黒鋼先生、こんばんは。ユウイです」
部屋のドアを叩くと、いつもの低い声が返ってきた。
「おう。開いてるから入れ」
ユウイは黒鋼の部屋に入ると音を立てないように鍵を架け、靴を脱いで上がった。
「どうした?」
風呂上がりらしい黒鋼は、寝間着のズボンに肩からバスタオルを掛けただけの格好でユウイを迎えた。
厚い胸板がタオルの間から覗いていて、ユウイはドキッと赤面してしまった。
「これ、手に入ったので。一緒に呑もうと思ってツマミ作ってきました」
両手の酒瓶とツマミを持ち上げて見せると、黒鋼は嬉しそうな顔をした。ユウイはそんな黒鋼に少しだけ微笑み、テーブルに酒を並べた。
「日本酒とワイン。焼酎も選びたかったんですけど、よくわからなくて」
そう言うと、黒鋼は
「ちょっと待ってろ」
と言い、奥の部屋に引込んだ。
(ファイならここで待ってないでついて行っちゃうんだろうな)
と考えていたら、黒鋼は何か箱のような物を持ってきた。
「何か判るか?」
それは木で出来た箱で、縦に長い。正面に当たる面に何か日本語が書いてあった。ユウイが首をひねっていると、黒鋼が言った。
「可笑盃(おかしさかずき)だ」
箱を開け、盃を取り出しながら、黒鋼は一つ一つ丁寧に説明した。
八分盃(はちぶんはい)、可盃(べくはい)、羽盃、さいころ盃、うぐいす盃、透かし盃。
ユウイは黒鋼の知識の深さに驚いて聞き入っていた。
「お前呑める方か? ファイの奴は笊だが」
ファイの名前に胸がチクリと痛む。平静を装って、ユウイは答えた。
「多分同じくらいです」
黒鋼は片方の眉を上げ、日本酒を選びながら言った。
「その言葉遣い何とかしろ。酒が不味くなる」
「えっ、あ、うん」
黒鋼はその答えに満足そうな表情をすると、一本の瓶を選び出した。
「なら、これだな。盃は・・・最初だからな。これでいこう」
ユウイの心臓が物凄い早さでドキドキしていた。
黒鋼がまず選んだのは透かし盃だ。底と側面に桜の透かし模様が入れられていて、とても上品だ。酒を注ぐと器が透けて、嵩(かさ)がわかる。
チビり、とユウイが呑むと、黒鋼は言った。
「それじゃダメだ。一息に呑め」
「えー。そんなの無理!ちょっとづつならいいけど」
「アイツと同じなら、笊なんだろ?カワイコぶってないで呑めよ」
「うーん」
笊だというのは嘘ではないが、普段呑んでいるのはワインが中心だ。呑み慣れない日本酒を一息に呑んだりして、酔いつぶれたりしたら何の為に来たのかわからない。しかし黒鋼は許してくれそうになかった。しかもユウイが飲み干すのをニヤニヤしながら待っている。仕方なくユウイは言った。
「一息に呑むのはこれだけだよ」
「あぁ」
ユウイは盃を空けた。
「貴方も飲んで」
「黒鋼だ」
「くろがね・・・」
ユウイの顔が赤いのは酒のせいだけじゃなくなった。


次に黒鋼が選んだのは、飲み干すまで盃を置けないという可盃(べくはい)だ。底に空いている穴を指で蓋をして飲む。黒鋼は、盃の持ち方の説明を始めたが、いまいちユウイは上手く持てない。黒鋼は痺れを切らし、ユウイの手を掴んで握らせた。
「こうだ」
ユウイは思わず手を引込めようとして止どまった。
「?」
黒鋼は一瞬怪訝な顔をしたが、なんとか穴を塞いで持てたユウイの可盃に酒を注いだ。
黒鋼はと言うと、八分目しか注げない、という八分盃を選び、一息に飲み干した。
「じゃ次だ。これは・・・呑んだ方が判りやすいな」
そう言うと中華風の絵が描かれた、鳥の嘴のような突起がついた盃に酒を注いだ。ユウイは慌てた。
「ちょっと待って、このままただ呑み続けるの?このペースじゃおれ、いくらなんでも倒れちゃうよ」
「あぁ、ツマミか?そういえばまだ食ってねぇな」
黒鋼はそう言うとユウイが持ってきたチーズだのを口に放り込んだ。
「・・・!」
参った。何も言えないでいると、黒鋼は続きを呑み始めた。一口呑む度に綺麗な盃にふさわしい、美しい笛のような音が鳴る。ユウイは思わず瞳を閉じうっとりと聞き入った。
音が止み瞳を開けるとすぐ側に黒鋼がいた。いや、さっきからそこに居たのだが、無意識に寄りかかりそうになっていたらしい。
「おれもその盃で呑んでみたいな」
焦って思わずそう言うと、黒鋼は首を振った。
「この可笑盃は、ひと通り呑んでからじゃないと同じ盃は使えねぇんだ」
「どうして?」
「そういうルールの方が沢山呑めるだろ」
「なんだ、今決めたんじゃない」
呆れてユウイは笑ったが黒鋼は真面目な面持ちで言った。
「いや、これを作った奴がそう決めたんだ」
「本当に?」
ファイは両手を付いて黒鋼に迫った。黒鋼はほんの少したじろいだが、ユウイの側にあった一枚の紙を掴むとユウイに押しつけた。
「?」
何やら盃の説明書きのようだ。しかしユウイには読めないような漢字が並んでいる。
「こんな難しい字、読めないよ~」
ポイッと説明書きを放り投げた。
「あ、てめ、投げるなっ」
意外にも黒鋼は慌てて説明書きを掴もうとした。そしてそれは黒鋼とユウイの上にヒラリと落ちて来て、それをつかまえようと、二人はほぼ同時に腕を伸ばした。
「わっ」
「あっ」
ゴツンと派手な音がして、ユウイは黒鋼の胡座の上につんのめってしまった。
「いって、大丈夫か?」
黒鋼の声に額を押さえながら顔を上げると、すぐ目の前に黒鋼の顔があった。
深紅の瞳が、クールな口元が、視線を捉えて離さない。
ユウイは瞳を閉じ、そっと唇をつけた。





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