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小説 鷹の口づけ


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堀鍔学園中等部

自動販売機

2011.02.05  *Edit 

「おかしいな」
店主は首をひねった。最近自動販売機の売り上げが落ちている。店はとある学園の前にある小さな商店で、いわゆる「前店」と呼ばれる昔ながらの駄菓子屋兼文房具屋だ。
売り上げが落ち始めたのは4月下旬から。例年なら新入生が学校に慣れ、気温も上昇する季節なのでうなぎ登りに売り上げも伸びる時季なのだが。店主は自動販売機を一時間ごとに観察する事に決めた。

翌朝5時。 店主は店の前の掃除を始めた。今日はいい天気で、雀が囀る声が聞こえる。自動販売機には特別異常はないようだ。さすがにまだ利用する者は無かった。

6時。
店主が自動販売機を見やると、体格の良い男子生徒がその前に自転車を停め腕組みをして正門の方を見ていた。紅い瞳をしたその生徒は自動販売機を利用するでも無く唯正門を見ているのだった。
「?」
店主は首を捻った。

7時。
店主は自動販売機の側にまだ先刻の生徒が居るのに気がついた。先刻よりも不機嫌そうに見える彼の顔つきは、なぜかテレビニュースで報道していた凶悪犯を連想させた。
声を掛けた方がいいだろうか、と店主は一瞬考えたが、待ち合わせの時間に早く着きすぎて相手が遅れているのかもしれないと思い直した。

8時。
いつもどおりならそろそろ通学する生徒がちらほら現れ、ジュースやお菓子を買って行く時間だ。
そういえば最近買い物をする生徒自体が減っていたなと店主は気がついた。
自動販売機を見れば先刻の生徒はまだその横に立っていた。不機嫌な怖い顔は先刻より酷くなっているような気がした。生徒の余りの目付きの悪さに店主は不良じゃあるまいな、と彼が立ち去るまで(つまり授業が始まるまで)ずっと監視する事にした。
8時15分になっても彼は動かない。8時30分になった時、ずっと正門に向けられていた生徒の視線が歩道に向けられた。
そして生徒はほうっと大きな溜め息を吐くと、自転車に跨がり学園へと走って行った。
「なんだったんだ?」
店主は呟いた。

12時30分。
昼食を食べ終えた店主はまた自動販売機のところに朝の生徒が立っているのに気がついた。大抵の生徒は友人と一緒にパンやジュースを選び、大騒ぎをして買って行くのだが、彼は朝と同じようにやはり一人で腕組みをしてただ立っている。
店主は暫くの間迷っていたが、今日のところは声を掛けない事にした。
と、それまでじっと立っていた男子生徒がくるりと後を向いた。店主は慌てて目を逸らした。何か因縁をつけられたら敵わない。他の生徒達の声がした。
「ね、ファイはどれにする?」
「オレは紅茶~今日はレモンティの気分~」
ガチャン、とぺットボトルが二度音を立て、二人の生徒は学園に戻って行った。
「ふぅ」
先刻から立っていた男子生徒が大きな溜め息を吐き彼もまた学園へ戻って行った。
すると何人かの生徒達が慌てて店に飛び込みパンとジュースを買って学園に戻っていった。
その様子を見て店主は呟いた。
「ひょっとして、あの目付きのせいで生徒達が敬遠しているのか?」


「黒鋼、最近おかしいぞ?朝練にも来てないらしいじゃないか!」
草薙先生の言葉に黒鋼は俯いた。最近眼をつぶれば浮かぶ笑顔に俯抜けにされていることは自分でも分かっていた。
と、横から声が掛かった。クラスメイトの空汰だ。
「俺知っとるよ。コイツ前店で立ち番してんねん」
「な、なんでお前・・・」
「何でも何も朝からあないガン飛ばしてたらどなたはんも自動販売機に近づけへんよ。ファイちゃ・・・」
「!! だ、黙れよ!」
黒鋼は慌てて空太の口を塞ぐと
「放課後はきちんと部活に出ますからっ」
と草薙先生に叫び、空太を引きずって教室へと向かった。


「なぁに、男子ったら騒がしいね~。ファイ、聞いてる?」
「えっ、なぁに?」
「もうファイったらどうせ黒鋼君に見とれてたんでしょ?大好きなんだもんね~。あんな目付きの悪いののどこがいいのか分からないけど」
からかうように言われ、ファイは真っ赤になってしまったのだった。


そう。自動販売機の売り上げが落ちていたのは、黒鋼が話しかける勇気も無いのに、毎日朝とお昼休みに睨みを利かせながらファイを待ち伏せしていたせいだったのだ。
入学して同じクラスになり、お互いに一目惚れしたふたりだったのだが、まだどちらも想いを伝えられずにいた。そして生徒会役員に選ばれ、やっと挨拶くらいは出来るようになるまで黒鋼の立番は続き、前店の売上げが元に戻るには夏までかかったという。


END






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