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小説 鷹の口づけ


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本誌沿い(長編)」
時間

時間 その5

2009.11.17  *Edit 

怪我人達は護衛と共に白鷺城へと向かって出発した。医局長である植田が帯同し、ファイは残る事となった。
「オレってからかいやすいのかなぁ・・・」
と言うのは局長とファイのどちらが残るか話し合った時、決して人をからかったりしないだろう植田がこう言ったからだ。
「ファイ、そうすればあなたの願い通り黒鋼と共にいられるでしょう?」
無論それだけが理由で残ったわけではない。ファイのように薬師としても戦士としてもある程度の力量を持ち合わせている者は、日本国に今まで居なかった。だからこれまでは戦場とのパイプ役である伝令の他に、救護所を守る者も数人必要だったのだ。しかしファイのように応戦できる者がいれば人手が少なくて済む。そして敏感に敵襲を察知できれば新たなる被害も生まれにくくなるのだ。植田は微笑んで言った。
「建前としては、ファイさんが残ってくれた方が、人手が少なくて済みますからね」
そう言われては残るしかなかった。それに本当にかなりの人数が負傷していたのだ。


蘇摩の元に伝令がやって来た。
「救護班の内、植田局長と怪我人は無事白鷺城に向け出発しました。団長からはまだ連絡がありません」
「そう、わかりました。お前は黒鋼の所へ一足先に向かい同じ事を伝えて頂戴。途中何かあったら無理せず引き返すように。私も後から向かいます」
「わかりました」
伝令は跳び発った。蘇摩は考え込んだ。
殺気が放たれたのは間違いなくこの辺りからだった。しかしここには何もいない。魔物どころか動物一匹さえも。
「えっ?」
蘇摩は眩暈にも似た感じがして、思わず眼を瞬かせた。辺りの景色が何かに呑み込まれるかのように揺らめいて、元に戻った。
「えっ?」
そこには魔物が居た。蘇摩のすぐ目の前に。


黒鋼は魔物の動きを見極めるためスピードを上げた。魔物がいた場所は森の中でも開けた草原になっていて、丸い輪郭を辿るように走り魔物を翻弄する。黒鋼は刀を振り上げた。
「天魔・空龍閃!」
魔物は縦に真っ二つになった。しかしすぐに再生が始まった。まるで時間が反対に進んでいくかのように。
「ちっ」
最早再生ではない。黒鋼の刀を呑み込んだまま元に戻っていく魔物の傷を、まるで治りかけの傷を抉るように手首を返し、黒鋼は再び二つに切り裂いた。
「また再生するんじゃ埒が明かねぇな・・・」
黒鋼が呟いた時、周囲の景色が歪んだ。


ファイは気が気ではなかった。
先刻殺気が放たれた方角から魔法の感じがするのだ。そしてそれとちょうど反対の方角から、どういう訳か代わる代わる魔法が発せられている。どんな状況か判らなければ、どちらに行くべきか判断できない。
いや、ファイは救護班として来ているのだからそもそも戦闘に参加することは許されていないのだが。
しかしせめて、魔力が働いていることを伝えたかった。
ファイが唇を噛んだとき、伝令のくノ一が現れた。泣きそうな顔をしている。
「副長、大変です、お二人が居なくなりました! 軍団長も蘇摩隊長も何処にも居ません!」
ファイは大きな瞳をこれ以上ない程に見開いて驚いた。
「えぇっ!どういうこと?」
「わかりません、蘇摩隊長に軍団長の元へ向かうように言われたのですが、気配が全く感じられません。何かあったら無理をしないで戻れと言われていましたので、まずは蘇摩隊長の所に戻ろうと思ったのですが、蘇摩隊長もいらっしゃらないのです」
ファイは息を呑んだ。くノ一の彼女が気配を感じ取れないとは。
しかし、勿論二人の行方も心配だが、ファイは大事なことに気がついた。
「あれ?黒鋼と蘇摩さんがいないなら、誰が指揮を執っているの?」
「はい、何方もいらっしゃいません。それでファイ様の所に伺ったのです。知世姫から禁止令が出ていることは承知しております。でも、他に頼れる方はいないのです」
ファイは迷っていた。救護所を空けるわけにも行かない。
暫く考えていた後、ファイは顔を上げ、くノ一に告げた。


「えっ?うそ・・・」
蘇摩の前には魔物が居た。しかも傷つけけられた、手負いの魔物だ。幸い蘇摩に気付いておらず、気持ち悪い色の体液を流しながら自分を傷つけた者をさがすように辺りを窺っているようだった。しかしその間にもみるみる内に魔物の傷は塞がってゆく。
蘇摩は気配を消し、黒鋼の元へと向かうべく走り出した。


「じゃあ二人が居た筈の場所を案内してくれる?」
ファイはそう言うとくノ一を促した。
「はい、こちらはどのように・・・?」
こちらとは救護所の事だ。ファイはにっこり笑うと救護所の中に声を掛けた。
「マル・モロ、おいで」
「は~いvv」
「オレが居ない間此処を頼むよ」
「は~いvv」
ファイは奥から現れた二人に救護所を頼むとくノ一と共に出発した。
「どっちが近い?」
「団長です。ここからなら一里程です」
二人がスピードを上げようとした時、すぐ近くで気配がして二人は立ち止まった。
「ん?この気配は・・・」


黒鋼は呆然としていた。不意に魔物がいなくなったのだ。まだ手には魔物を斬った感触が残っている。幻術にかかっていた訳ではなさそうだ。呆然とするものの蘇摩と落ち合う為戻る事にした。
と、その途中、おかしな事に気付いた。
今までの報告通りなら居るはずの魔物達が全て消えているのだ。
ほぼ5里毎に魔物が蹲っているという話だったはずだ。
「!」
不意に二人分の気配がして黒鋼は身を潜めた。一人は忍びの訓練を受けたもの。もう一人も手練れのようだがよく分からない。しかし、訓練されている事は間違いなかった。草陰に身を潜める。やり過ごそうかと考えたが、消えた魔物を操っている者である可能性もある。勝負に出る事にした、その時だ。
「くろぽんみーっけ!」
脳天気な声がしてファイとくノ一が現れた。
「やっぱりね、黒様だと思ったんだ~」
またもやえへんとばかりに威張られて、黒鋼は唖然とするばかりだった。
「お、おまえ・・・」
「ねぇ黒様、居なかったんじゃなかったの~? 伝令の子、泣きながら報告してくれたんだよ、黒様が居ないって」
前半はくノ一に、後半は黒鋼に向かって言った言葉だ。
「そ、そんな、泣いてません!泣きそうでしたけど、でも、団長に会えてよかったです、きっと私の見間違いです!」
「えーそんなことないでしょー」
「だって団長はこちらにいらっしゃいます、私の探し方が悪かったに決まってます!」
力を込めて言うくノ一に黒鋼は溜め息を一つ吐くと言った。
「お前ら分かるように話せ!」
くノ一はハッとして姿勢を正し(とりたてて姿勢を乱して居た訳ではないがファイにはそう見えた)事の経過を報告した。
黒鋼は頷くと言った。
「なるほどな。時間はどのくらいだ?」
「四半時程度にも満たないかと」
「わかった。蘇摩が心配だ。案内を頼む」
「うん!」
「はい!」
同時に返事をした二人は顔を見合わせた。黒鋼は大きな溜息を吐くと言った。
「勿論薬師は薬師だ」





   つづく




銀鷹が語る 平成20年7月1日 掲載



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