小説 鷹の口づけ

鷹の口づけの小説が引っ越してきました。CLAMP先生のツバサ 黒鋼×ファイ のBL小説です。

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「小説鷹の口づけ」です。

お知らせ


先日の投票結果をふまえ、小説ブログを立ち上げました。
順次残すものを移動してゆきます。
移動が完了しましたら「銀鷹が語る」で告知します。その時はまた宜しくお願いいたします。m(_ _)m




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鬼怒川温泉にて

本誌沿い


黒鋼の女湯侵入事件が解決したその夜。
ファイは、布団を敷きながら事件のことを蒸し返していた。

「黒ぴっぴ、本当に酷いよね〜」
「あぁ?」
眉間に皺を刻みながら黒鋼がファイを振り返る。
「だってさー、オレというものがありながら、女湯に侵入するなんて〜」
「侵入言うな!」
怒鳴られてもファイは全く意に介さない。
「侵入は侵入ですー。で、好みの女の子、いた?」
「知るかっ」
「ふーん、いたんだー」
「なんでそうなる?!」
全くかみ合わない会話に黒鋼は苛立った。自分から見れば不可抗力な出来事だ。女将の言うとおり、自分が話を聞いていなかったのだとしても。
「やっぱりおぱいは大きい方が好きなの?魔女さんみたいな?」
ファイはまだ突っかかるように問いかける。黒鋼の中では、お湯を掛けられ女将に絞られ、既に罰は受けたのだから終わったことだ。それなのに魔女まで持ち出され、黒鋼の苛立ちは膨れあがっていた。
「魔女は関係ねぇだろ」
不機嫌MAXな、いつもより更に低い声で言うと、ファイは開きかけた口を閉じた。
「訳分かんないこと言ってねぇで、寝ろ」
枕を投げつける。
「あー、黒様乱暴だー。このお布団お客様用なのにー」
「うっせぇよ」
旅館で働くことになった時、一行は当然従業員用の部屋が充てられるのだろうと思っていた。女将もそのつもりだっただろう。
しかし従業員用の部屋は一つしか空いておらず、しかも一人部屋なので流石に男3人で雑魚寝するのは無理だった。それでやむを得ず客室を二人が使うことになったのだ。部屋割りを決める時、モコナが言った。
「モコナ、小狼と一緒!」
モコナと一緒と言うことは、必然的に一人部屋、従業員用の部屋になる。
「えっっと。お二人がそれでよければおれは良いです」
「別にいいよー。ね、黒ぽん?」
「何でもいい」
モコナは意味深な笑顔をファイと黒鋼に向け、
「じゃ、小狼、行こう〜」
と言いながら、小狼の肩に飛び乗ったのだった。


枕を投げつけた黒鋼は、電気を消し、自分も横になると瞳を閉じた。
しかし隣のファイがごそごそと動いていて寝る様子が無い。
不審に思った黒鋼は、気配を消して様子を見ることにした。
「はぁ・・・」
やがてファイの溜息が聞こえてきた。
「はぁ・・・」
小さな溜息は、不規則な間隔で何度も繰り返された。
「はぁ・・・」
何度目かのファイの溜息に、苛立ちを募らせた黒鋼はガバッと起き上がって言った。
「何でっけぇ溜息吐いてんだ、お前は?」
「わぁつ、黒たん、びっくりさせないでよ!」
文句を言うファイに、黒鋼は
「何度も溜息吐いてて、ウルセぇよ。寝れねぇだろ!」
「うっ・・だ、だって・・・」
「何だ」
ファイの瞳の端に、涙が溜まっている。今の言葉で涙が溢れたわけでは無いだろう。
「黒たん・・・んーん、何でも無い、ゴメンね、起こしちゃって」
ファイはふわりと笑うと、反対を向いて横になった。
「あぁ?」
黒鋼は不機嫌を露わにしてファイをこちらに向かせた。
「何でもねぇ訳、ねぇだろ?言え!」
「何でもないですー!」
ファイは頑として否定する。
(まぁ、何となく解るけどな)
黒鋼は内心呆れながら、やむを得ず強硬手段に出ることにした。
「おい」
「もう寝ましたー」
ファイが瞳を閉じたまま返事をする。
「下手な寝たふりだな」
黒鋼は笑いながらファイの顎に手を掛ける。
「寝てるもーん」
ファイはそっぽを向こうとしたが、黒鋼は強引に口づけた。
「んん!」
暫く唇を貪り、やがてファイの身体から力が抜けると、その上にのしかかる。寝間着代わりの浴衣の帯を解くまでの間、ファイは抵抗と呼ぶには弱々しい腕の動きで黒鋼の浴衣を掴んでいた。
暗闇の中に浮かび上がる白い肌に口づける。
「んっ・・・はぁっ・・・」
ファイはすぐに嬌声を上げ始めた。
「はぁっ・・・んんっ・・・あぁぁっ・・・」
胸から腹へと黒鋼の唇が動き、下腹部へと辿り着く。
「あぁっ・・・やぁっ・・やめっ・・・黒、さまぁ・・・だめっ」
ファイがイヤイヤする。
「駄目じゃねぇだろ?」
ファイが黒鋼の頭を掴んで自分から引きはがそうとする。黒鋼はその腕を掴み返すと腰の横で布団に縫い付けた。
「お前な、いいかげんにしろよ」
凄味を含む声音に、身が竦むがそれも半分だ。
ファイは、これから訪れるだろう激しい愛撫に期待している自分がいることも、認めざるを得なかった。


「ふぁぁん・・・もぉ・・・ダメ、イクっ」
黒鋼の上で絶頂を迎える寸前、黒鋼がぴたりと腰の動きを止めた。
「・・・?黒たん?」
「お預けだ」
「やぁあぁん・・・やぁん・・・」
自ら腰を動かし、ねだるファイに黒鋼は言った。
「女に妬いたのか?」
「え?」
「また不安になってんだろ?お前の悪い癖だ」
言い当てられ、ファイは息を詰めた。
「俺がどれだけお前にいかれているか、解らせてやるよ」
脱がせた浴衣の帯を手に取る。
ファイを腰から下ろしうつぶせにすると、後ろ手に縛り上げた。
そのまま腰を持ち上げ、今度は後から突く。
「あぁぁっ・・・はぁぁんっ・・・」
ファイが昂みを迎えそうになると、また体位を変えた。
「黒様・・・ああぁんんっ・・・はぁっ・・・だ、あ・・・もっと・・・」
「足りねぇか?出したら仕置きな」
「やぁんっ・・・あぁっ・・・はぁぁっ・・・あああっ・・・」
イキそうでイケない。
まるで無間地獄のような夜を過ごしたファイは、朝焼けが始まる頃にやっと両腕を解放された。
「ほら、掴まれ」
「あぁんっ・・・あぁんっ・・・」
対面座位に座らされ、ファイはやっと自由になった両腕で黒鋼の肩と、頭に掴まる。
口づけされ、突き上げられ、張り詰めた互いの熱が更に膨張する。
「どれだけ愛されてるか、分かったか?」
「くろ・・あんっ・・・うんっ・・・うんっ・・・あっあぁんっ・・・」
ファイは黒鋼の熱が放たれたと同時に昂みを迎え、そのまま意識を失った。



「黒鋼さん、ファイさん、おはようございます」
部屋の入口から小狼が呼びかける。
「おう、入れ」
「朝食に見えないので来てみたんですけど・・・」
「二人とも、具合悪い?大丈夫?」
小狼の懐からモコナも心配そうに顔を出した。
「大丈夫だ、俺はな。コイツは疲れが出たんだろ、今日は休ませる」
「ファイお熱があるの?」
「熱はねぇ。疲れが溜まったんだろ。よく寝てるから放っておけ」
心配そうに顔を見合わせた小狼とモコナだったが、小狼も仕事に行かなければならない。
「分かりました。あ、黒鋼さん、早く行かないと食べ損ないますよ?」
「おう」
女将は時間に厳しい。黒鋼は二人を促して部屋を出た。時計を見ると食事の時間は後10分くらいしか無いが問題ないだろう。途中で小狼達と別れ、食堂に向かう。
「ま、今日は起き上がれるわけねぇな」
一人呟いたその頃、ファイもまた頬を膨らませていた。
「もぉ・・・なんで小狼君達を部屋に入れるかなぁ・・・寝たふりするしか無いじゃん・・・」
腰をさすりながら、一晩中愛された記憶を反芻する。
「・・・ちょっとは自信持っても良いのかな・・・」
呟きが黒鋼の耳に入っていたなら、お仕置きは一晩では済まないに違いないことなど、ファイは気付いていないのだった。



 END


夜魔のおにぎり

本誌沿い


戦の後始末が終わると、夜魔の人々はさっさと寝てしまうことが多い。ずっとずっと続いている戦には明確な勝利など無い。故に戦から帰ったあとに勝利の宴を行うような風潮が出来ないのも道理なのだろう。
戦の後は大抵腹が減る。しかしほんの少しざわついている今ならまだ誰かが台所にいるかも知れない。
黒鋼は最低限の刀の手入れだけをすると、矢の手入れをしているファイをおいて、台所へと向かった。
案の定、明日の食事の下ごしらえをしている人が居て、残り物は何かないか尋ねた。
「生憎、米くらいしかありません」
「生米じゃぁないんだろう?ならそれでいい」
辺りを見回しても、漬け物や佃煮の類さえ無いらしい。黒鋼は塩を少し貰うと、その場でさっと塩結びを二つ作り、自室に戻る。
さっさと刀の手入れをしてしまわなければ。
そう思いながら襖を開けると、ファイが心配そうに自分を見上げた。
「なんだ?」
解らなくても伝わるだろうとそう言うと、ファイはすっと指を刀に向けた。
「あぁ」
手入れもそこそこに居なくなって、ファイなりに心配したのだろう。
「問題ねぇ」
黒鋼はそう言うと、塩結びが乗った皿を脇に置き再び手入れを始めた。
あからさまにファイがホッとする。
そして塩結びが気になるのか、じっと見つめている。皿を少し押してやると、しかしファイは頭を振った。
やがて手入れが終わる。
黒鋼は塩結びを手に取った。一つ、ファイに渡そうとしたがファイは再び首を振った。
「んーん」
断られた黒鋼は少し思案したが、自分の塩結びを半分に割って断面を見せる。ファイが覗き込んで首を捻った。何かが不思議らしい。
「・・・?」
「何言ってんだかわかんねぇ」
黒鋼がそう言うと、ファイは少し考えてからぎゅっと瞳を閉じ、口を尖らせた。具が無いのが不思議だったようだ。
「あぁ、梅干しか。無ぇ」
黒鋼は塩結びを二つとも腹に収めると、ファイを抱き寄せた。
「次は、お前を喰う番だ」
「えっ、まさか黒様、そのための腹ごしらえ?」
馬のような、ドラゴンのような動物に乗って移動するとは言っても、戦の後は体力的にご遠慮願いたい。
「さぁな」
素知らぬ返事の黒鋼からファイは離れようとして動きを止めた。黒鋼も気付いたようだ。
「あれ?オレ、言葉が分かるよ」
「あぁ。あいつ等、やっと来たか」
黒鋼は満足げに口の端を上げる。
「小僧どもが近くに来た祝いだ」
そして奪うような口づけは強制的にファイの身体から力を奪い、互いに激しく貪り合い続けた。

次の戦から帰ると、ファイが包みを渡してきた。
「黒たん、おにぎり作ったから、お手入れ終わったら食べよう」
「どうしたんだ?」
「戦に行く前にオレが作ったんだよ、意外と簡単だね」
具は佃煮だった。
「ふうん」
黒鋼があっという間に完食する。
「また作るから、何か入れて欲しい具があったら言ってね」
「鮭」
「?・・・わかった」
ファイは首を捻り、しかし翌日黒鋼に酒結びを手渡すことになる。
そしてそれからひと月後、二人は月の城でやっと小狼に再会した。


衣擦れの音と白い布の秘蜜

リレー小説


リレー小説第2弾です。
H28.4.28~ 紅理様主催茶会にて。
タイトルは紅理様と銀鷹の合作です。
エロ長めなのでお気をつけ下さい。

○リレー順(リンク先はPixivユーザーページです)
1:銀鷹
2:紅理様
3:フシギ様
のリレー形式
テーマ:日本国永住。黒さまに触られただけで敏感になるため、情事を断ったら野獣に夜這いされる。






 白い肌を撫でると甘い嬌声が上がり、先走りの液がたらたらと流れ始めた。緩く掴みながら胸を刺激する。ファイの嬌声は更に甘く、大きくなった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・ああんっ・・・」
 一つになった身体を律動する。ファイは激しく喘ぎ、黒鋼にしがみついた。
「・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・あぁぁっ・・・」
 やがて脱力したファイの身体を清めてやると、黒鋼は自らも眠りについた。



◇◇◇◇◇



 このところ、ファイには悩みがあった。
 正直、体力が保ちそうにないのだ。
 黒鋼の愛撫は優しくて、時には激しくて、満ちては引いていく波のようにファイを翻弄する。だからこそ、昂みを迎えて気を失うわけだが、なんだか最近自分がおかしいような気がする。
 ほんの少し、例えば湯飲みを渡そうとして指が触れあっただけで黒鋼が欲しくなる。肌を撫でられれば、それだけで先走りが出てくる。躯を重ね始めた頃は、これほどまでに敏感だっただろうか。
「黒様の腕が上がった、んじゃないと思うし・・・」
 ファイは掃除の手を止め、ぽつりと呟いた。黒鋼は元々上手いし、それが原因じゃないとファイ自身分かっている。いつだったかの情事をおもいだし、ファイはうずくまる。黒鋼に自分の現状を知られるのかとても怖い。よし、とファイは決める。黒鋼との情事を全部断るしか方法はない。ファイは決意新たにしたのだった。



◇◇◇◇◇



 白鷺城の鍛練場。今日は忍軍が鍛練をしていた。その中で一人機嫌の悪い者がおり怖がって誰も近づかない。
 また、ファイさんと喧嘩したのか、とひそひそすれば、ぎろっと黒髪の男は睨む。男の名は黒鋼といった。
 あの様子では、また彼の異人を怒らせる何かがあったのだと、噂声と話は絶えない。そういうのは専ら女が好むものだが、忍軍のお喋り共は好奇心に負けて推測をぶつけ合う。
 浮気じゃないか。
 まさか、あの鬼がか?
 愛想が尽きたのなら、隙ありじゃないか?
 止めておけって。鬼に喰われるぞ、お前。
 逆に、あの狐が浮気でもしてるんじゃないか。
 嗚呼、それはあり得る。
 あの容姿だ。その手の数奇者<すきもの>なら判らんぞ。
 などなど、根も葉もない噂どころか好奇心が先んじ、よく判らない方向性にもいくことがある。
 いい加減、その奇怪な目線に鬱陶しくなってきた黒鋼は、精神統一にならないことに溜息を吐き、木刀を手に立ち上がる。
「おい! 打ち込みの鍛練してぇそこのヤツら、来い!」
 ざわめきが広がる忍軍に、苛立ちを募らせた黒鋼は更に怒鳴った。
「おい、そっちの端からいくぞ!!」
 黒鋼はたまたま近くに居た不運な隊員に木刀で斬りかかる。そしてあっという間に全員叩きのめすと、少々息を整えながら再び怒鳴った。
「お前ら、俺が居なくなってから鍛錬サボってたんじゃねぇだろうな? 白鷺城100周まわってこい!」
「ぇぇぇ・・・」
 文句さえ声にならないほど息を切らせた隊員はよろよろと立ち上がると走り出した。全員走り出したのを確認して、黒鋼も走り出す。しかし、その途中で黒鋼は方角を改め、一人自宅に向かって走りだした。



 ファイは帯を解くと着物を脱いだ。最近急に敏感になってしまった肌は、ちょっと擦られただけで欲を呼び起こす。身体中どこもかしこもだから、たまらない。
 衣擦れさえ、身体の中から熱がわき起こるのだ。ファイは用意したさらしを身体に巻き終えると呟いた。
「ふう、これでずれないよね・・・」
 そして着物に手を掛けた時、玄関の扉が開く音がした。
「おい、帰ったぞ!」
「えっ、黒たん?お、お帰りじゃなくって、ちょっとまって!」
 慌てて着物に袖を通したが、帯を巻く暇などない。悩ましい格好のまま黒鋼の眼前に晒されることになったファイは、当然のように黒鋼に押し倒された。
「ちょ、待って黒様!ストップ!ストップ!」
「うるせぇ、黙れ」
 しかし布団の上に下ろされた瞬間、ファイの平手が黒鋼を打ち抜いた。
 パーン!!
「やだって言ってるじゃん、黒様のバカ!もうしない、絶対にしない!」
 涙目ではあるが、ファイが黒鋼を睨んで言い放つ。腕力では黒鋼が勝つが、この場で無理やり致すとなれば魔術師は徹底的にさけまくるだろう。渾名なんて呼ばずに東京のように名前よびにするのかもしれない。旅路を思いだし、黒鋼は内心冷や汗をかいた。
 渾名よびでないことがあの頃、辛かったのだ。
 はぁ?と言いかけた黒鋼だが、黙る。なにも言わないのをよしとしたファイが言い放った。
「絶対シないからね!!!!!」
 そんな日から、ファイは黒鋼との情事は断るか、会うこと自体を避けるかするようになったのだった。同じ屋根の下で暮らしているのだから、逢わないようにすることなど無理だろう。しかしファイはそれをやってしまえるのだ。
 個人部屋は一応のため互いにあり、寝起きはまず自室でするようになる。朝餉は魔術で空間を保っているのか、食卓に着けば解除される仕組みで、変わらずあたたかなまま食すことが出来る。本人はひとり先に城へ出仕してしまって、家にはいない。
 昼は任務で留守なので、お握りが包まれた弁当が朝の食卓に用意されている。夕餉は朝と同じ原理だ。夜とて、黒鋼の任務が魔物討伐も含まれるため、遠征になることもしばしば。
 そんなこんなで、まったく顔を合わすことなく、ひと月が過ぎた。



◇◇◇◇



 ―――もう、黒さまの貌を見なくなってから、どれくらい経ったんだろう…。
 仕事の合間の小休憩に、女官に淹れてもらった茶をひと口含み、ぼんやり空と流れる雲を見るもなしに眺める。湯呑みの淵を無意識に指でなぞり、どうしようかなぁと溜め息が漏れる。
 黒鋼と情交をしないと宣言した翌日、天機なのか偶然なのか、早番を請け負っていた女官が、臨月に入るとかで、急募で人員を欲していると聞いた。早番なので、時間は朝日が昇る前から八つ刻まで。その条件にファイは飛びついた。
 城の人事としても、早番という時間帯が厳しい条件に、ファイの挙手は嬉しいものだった。ファイが空ける仕事の穴は何とか周りで埋めつつも、彼の出仕時刻が朝と夜の時間が入れ替わる程度で、昼夜逆転よりは大分マシだ。
 そうして、完全なる黒鋼除けの時間帯が即日出来上がった。
 ―――こんな偶然……、いや、偶然じゃないね、これも、必然…なのかな。
 必然であるなら自分はどうしたらいいだろう。
 ―――黒様、怒ってるんだろうなぁ・・・。ううん、呆れてるかも。
 そう思うと既にルーティンとなった生活リズムを崩すのもちょっと怖い。黒鋼に会うと言うことは、きっとあの日の続きをすると言うことだ。欲情のまま押し倒した黒鋼の紅い瞳を思い出す。
「っ、はぁっ・・・」
 精悍で凛々しい顔、意志の強い瞳、自信に溢れた口元。
 自分とは違う、男らしく力強いのにしなやかな肢体。
 ファイは、黒鋼を思い出しただけでどう言う訳か、息が徐々に荒くなっていった。
「ファイ様?どうされましたか?」
 仕事を再開すべく声を掛けようと近くにやって来た女官に驚かれるほど、ファイの息は乱れていた。
「大丈夫ですか?今日はもうお帰りになられた方がよろしいのでは・・・」
 狼狽える女官に、ファイは力なく微笑む。
「だい・・じょーぶ・・・ちょっと遅れるけど、行くから」
 なおも心配する女官を何とか説き伏せ仕事に行かせると、ファイは自らを抱き締め、深呼吸を繰り返した。
 あぁ、黒鋼に会いたい。
 ファイは強く願った。腕に力が入る。着物が擦れ、ファイの身体は更に熱くなってきた。
「黒様・・・」
 いや、黒鋼に会いたいのではない。
 黒鋼に触れたい。抱き締めて欲しい。
 そして、自分の全てを奪って欲しい。
 ファイの思考がそこに辿り着いた時、ファイは黒鋼を探して白鷺城を彷徨い始めた。
 ―――どこにいるのかな……。
 逢いたい、と思い立ったのはいいがファイは小首を傾げた。鍛錬場だろうか。それとも。遠征だったら逢うのは不可能だ。帰還している場合は別にして。
 さてどうしようか、と思案し、とりあえず行くあてはなかったが、足の向くままにファイは歩む。曲がり角があり、どちらに行こうかとファイが迷っていたら、後方に人の気配がした。振り返ると、黒鋼がファイを見つめていた。
「黒さま……!」
 駆け出した脚に澱みも迷いもなく、一直線に愛しいひとへ。
「―――ファイさま!」
「……っ?!」
 はっと瞳を開けると、茶を淹れてくれた女官が、今度は菓子を配り歩いていたのか、数がわずかに減った菓子器を持っている。
「大丈夫ですか? もし体調が優れないようでしたら、帰ってお休みになられたほうが…」
「………いま…のは…」
「夢でも見られたのですか?」
 夢―――。そうか、夢だったのか。でなければ、黒鋼を求めて城内を漫ろ歩くなど、正気の沙汰ではない。
「もうすぐ、忍軍も帰って参ります。鬼も、帰還しますよ」
 よかったですね。女官は微笑んでファイの傍らを去る。体調が悪そうだと判断し、気を遣ってくれたようだ。ファイはお言葉に甘えて帰ることにした。歩く度に衣擦れが起こり、さらに身体が熱くなってゆく。
「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
 息も絶え絶えになりながら帰宅すると、ファイは布団に肢体を投げ出した。



◇◇◇◇◇



 魔物の討伐から帰った黒鋼は、知世姫に報告を済ませると家路についた。
「どうやらファイさんは体調が悪いようですわ。喧嘩中などと言わず、看病して差し上げて下さいな」
 知世姫の台詞に、ファイが心配でたまらず、自然と足が速まった。
「おい。いんのか?」
「・・・」
 黒鋼は眉根を寄せた。最近ファイが張っている結界と思われる空間がなくなっているような気がして、辺りに神経を集中する。奥の方に人の気配を感じ取り、黒鋼は奥の部屋へと足を向けた。
 どうやら気配はファイの部屋からする。具合が悪いという話だし、きっと部屋で休んでいるのだろう。ちゃんと水分や栄養を取っているのだろうか。更に心配になった黒鋼は、ファイの部屋にそっと忍び込んだ。
「…っ、ん…っ」
 くぐもった声が聞こえてくる。ファイの部屋は薄暗い。熱があるのか、うなされているのか、と黒鋼は心配になった。喧嘩したからといって放っておくべきではなかったのだ。内心、己に黒鋼は舌打ちする。
 なにかしら都合をつけて逢おうと思えば会えたはずだ。
 暗さに目が慣れてくる。声は、まだやまない。それどころか、どんどん艶を帯びてきた。しかも渾名まで聞こえてくる。黒鋼は切なげな声を漏れさせる、布団の塊の前で足を止める。佇む己と啼くファイを隔てるのは掛け布団一枚だ。これほど近くにいても気付いていないほどに、気が散っているということか。布団へ手を伸ばし、ぺろりと中の様子を窺う。
「おい………っ!?」
 中を覗いた瞬間に、布団を素早く元に戻した。暗がりだが、夜目が効いてしまう分、微かに見えた。何やら、見てはいけないものを―――。
 暗がりに浮かんだ、白くなめらかな肌。汗からすらも誘いの香りが立ち込め、部屋に充満していたそれとは比べものにならないほどに濃厚な。
「く、…ろさま……?」
「! お、おう…。具合、悪いんじゃねぇのか…」
「悪い、よ…。黒さまがね…居ない…から…」
 不満そうにファイが言う。ねぇとファイは黒鋼に言った。囁き声ほどの小さな声ではあったが、艶を含んだ声だ。
「黒様がここにきたってことは、これは夜這いって言うんでしょ…?」
 ファイのセリフに黒鋼の目が丸くなる。確かに今は夜ではあるのだが。
「気持ちいいことしてくれるの…?」
 ファイは黒鋼に聞いた。
「うっ・・・」
 言葉に詰まり、黒鋼は奥歯を噛み締めた。改めて問われ、なぜか否定できずにいるうちに、部屋に満ちる誘いの香が強くなった気がした。ファイは無意識なのかそうでないのか、すっと黒鋼に手を伸ばす。手と手が触れたその瞬間、黒鋼は布団を乱暴に剥がすとファイにのし掛かった。
「あ……ッ」
 心なしかファイが嬉しそうな声を漏らす。剥いだ掛布から顕わになったのは、脱ぎかけの着物が腕に絡まり、何故か胸元に巻かれた白い布。
 ―――サラシか? なんでンなもん……。
 灯かりすら射さない暗闇には、浮かぶ白磁の肌がサラシの色よりも白さを浮き立出している。それでももがいてなのか、我慢が効かずに艶めかしい脚が肌蹴ている。
「…くろさま…」
 とろりとした色香。甘い調べで呼ばう名。動きが戒められたように止まった頬へ、伸ばされた青白ささえ思わせる手指。
 来テ、早ク。 オ レ ノ ナ カ ヘ ―――。
 す、と細められた緋には、獰猛な獣すら跪いてしまうだろうほどの野性が灯り、ゆったりとした動きの中でも獲物を逃がさぬように、唇を食む。
「っんン…」
 すぐに唇と歯列は耐えていたものを解放するように迎え入れられ、朱い舌が桃の舌を探り当て絡み付く。溢れるほどに唾液を絡ませ合いながら、黒鋼の指が癖になっている胸の果実へと滑る。
「はあぁんっ・・・」
 さらしの上からでも尖っていると分かる尖端を、いつもより優しく撫でるとファイが啼いた。指の腹でくりくりと刺激してやる。ファイは早くも腰をくねらせ始めた。身体中を撫でる。乱れた着物とさらしが、黒鋼を欲望に忠実にさせてゆく。胸を撫でるうちにさらしの隙間から現れた突起に、黒鋼は吸い付いた。
「ひゃぁっんっ・・・はぁんっ・・・もぉっ・・・ああぁんっ・・・」
 もう一方の尖りも摘まむ。内腿を撫でる。黒鋼のたった一つの行為さえ、ファイの肌をいつもよりずっと赤く染め、そして肢体の中から生まれた熱はファイの思考を奪い、黒鋼を求めることしか考えられなくなっていった。
 反応がなかなか良く、執拗に乳首を攻めたてていれば、やだ、とか、だめ、と制止の言葉が黒鋼に聞こえてくる。だが、制止の言葉に反して、魔術師の瞳は潤み、体は黒鋼が触る度にびくっとふるえていた。
「な、んで、胸だけ…っ…んんっ」
 潤んだ瞳でファイが黒鋼に聞いてくる。ファイは両膝をこすりあわせた。もどかしい、と動作でうったえるが、黒鋼はあえて、ファイのものには触れない。
「そのうち、乳首だけでもイけるんじゃねぇか」
 黒鋼が言うと、ファイは瞬きをした後、頬を朱に染めて「だれの、せいで…っ」と睨んできた。睨んでもいまのファイの状態からは、全く怖さなどなかったが。
「睨むくれぇなら啼いてろ」
「ヤ、ん!」
 サラシの隙間から覗く胸の果実はぷっくりと膨らみ、唾液でぬめりがあるまま指で抓み上げれば、その感触だけでも紅く色付いていることが判るほど、芯が通っている。
「ヤ、やぁアッ! イジメ…ないでぇ…」
「フン。イジメてやったほうが悦ぶクセにか?」
「イジメ…る、からぁ…! こんなに…」
 ファイの指が黒鋼の手に添えられ、引き剥がそうとするように力を加えるが、その手を黒鋼は利用した。
「俺に弄られんのが嫌なら、お前が弄れよ」
「な、何で…?!」
「サラシ越しなら、自分の指でも感じるだろ? 触ってみろよ」
 導かれた指先には、少し湿り気を帯びた尖り。始めのうちは黒鋼の指と相まってじゃれ付くように動いていたが、快楽を得た身体は意志とかけ離れて動くようになる。
「ぅ、ン…ぁ…はッ」
「やりゃデキんじゃねぇか。そのまま、少し遊んでろ」
 ファイは突き放されたが指の動きは止まらない。ファイの指はいつしか二つの尖りを弄び始めていた。
「あんっ・・・あっ・・・くろ、たん・・・そこぉっ」
 ファイの啼き嬌声に、黒鋼がうずき出す。胸から腹にかけて縞を描くかのように巻かれたさらしの間から見える白い肌に口づけた。
「ふぁぁっ・・・く、ろ、さま・・・あぁんっ・・・」
 黒鋼の口づけはちゅ、ちゅとわざとらしく音を立てている。その度にファイの指先に力が入り、肢体を震わせ、自ら胸を摘まんだ指先が更に嬌声を上げさせた。黒鋼はひとしきり身体中に口づけると、ファイのさらしに手を掛けた。とっくに役目を果たさなくなっていたそれを、ファイから剥がしてやる。
「ああんっ・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
 さらしが肌を滑っただけでファイが嬌声を上げた。黒鋼は一瞬首を傾げたが、それに構わずさらしを外す。そしてさらしの幅を折ると、おもむろにファイの手を胸から外し、手首を拘束した。
「く、ろたん?」
 緩くとは言え縛られて、思いがけないことにファイは動揺していた。
 もっとして欲しい、でも、ちょっと怖い・・・。
 黒鋼はそんなファイの気持ちを知ってか知らずか、露わになったファイの身体を余すことなく撫でてゆく。黒鋼の手がファイの身体の中にともった熱を大きくしてゆく。その熱に、ファイはぴくんっぴくんっと肢体をしならせ、手首もさらしに擦られた。
「ああっんっ・・・はぁんっ・・・はぁんっ・・・もぉっ・・・」
 身体が熱い。手首も熱い。
 胸に、腹に口づけられているのに、同時に手首にも口づけられているような錯覚に、ファイは陥っていた。黒鋼の指がファイの胸の乳首の周りをゆるく円を描くように触れる動きに変わる。
「や、くろ…たん…っ」
 自分で触れないのがファイにはもどかしい。やだ、さわって、とファイが言っても黒鋼は肝心なところには触れてくれなかった。
「んんっ…っ」
 黒鋼の手の動きにファイの体は敏感に反応する。
「そこばっかり、や……っ」
「そこってどこだ」
 黒鋼の問いに、ファイがうろうろ視線を泳がせる。言うのは恥ずかしいらしい。魔術師の頬が赤く染まった。嗜虐心を煽られるのはこういう時だ。黒鋼は口角をあげた。
「ち、乳首さわっ…っ、ひぁ…!」
 意を決したファイのセリフと同時に黒鋼が、ファイの乳首に触れるとびくんと白い体が反応した。ファイの間にあるものから白い飛沫が飛ぶ。はぁはぁとファイが息をした。
「随分…淫乱な身体になったな…」
 ―――まさか、胸の刺激でイッちまうなんてな。
 腹の上をしとどに濡らす白濁を指で掬い、指を擦り合わせて弄ぶ様を見せつける。焦点の戻ってきたファイが、それを目撃するとサッと目線を逸らす。
「ン、そんな…遊ばないで…早く」
 一度達したことにより、熱が抜けたせいか正気が戻ると、途端に羞恥が押し寄せて来る。けれど渦巻く根源は腹の奥底で蠢き、久しぶりの餌を欲っし、まるで濡れているかのように奥が切なく感じる。それにすらもゾクゾクとした快楽を得るのだから、これが黒鋼の好みに開発された熟れの果てか。
「焦るな。イテェ思いするのはお前だぞ」
「痛くても…好いよ…。黒さまに傷付けられるなら、その傷だって、愛おしいよ―――」
「…俺は、大事なものは、極力傷つけたくはねぇ」
「黒さまは、自分が傷付いたみたいに…思えちゃうから…やさしいよね…」
 だったらなおさら、 オ レ を 救 け て 。
「っ!」
 するり、黒鋼の欲を如実に語るモノへファイの足先が触れる。悪戯に器用な爪先は、布地の上からだというのに、黒鋼がより育つようにと好い場所を撫でる。
「ねえ、黒さま。我慢比べはね、オレ…キライなんだよ?」
「堪え性がねぇからか」
 充分に体温に馴染んだ指と白濁を、脚が上がっているために、さらに肌蹴た着物の隙間から滑り込ませる。下穿きを失くした秘処へ触れ、潤みすらしそうな蕾が指をぬるりと迎え挿れる。
「ふ、ぅ…ッン、違…うよ、黒ぷっぷが、負けず嫌いなんだもん…」
 不満そうに否定するファイもまたそそられる。
「オレが頑張っても、あっんっ・・・結局・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
「何言ってんだかわかんねぇぞ」
 黒鋼が蕾の中で指を曲げたのだ。
「だって、黒さまぁっ・・・ああっ・・・」
 黒鋼の長い指が、ファイの内壁を触れてゆく。指の動きに合わせてファイが啼き、黒鋼は益々嗜虐心に駆られた。
「ちゃんと言え」
 足先から伝わる熱さえ、ファイの中心に伝わってゆく。
「はぁっ・・・いつも・・・あんんっ・・・黒様が・・・勝つまでっ・・・っ・・・んんっするじゃんっ・・・」
「お前が弱いだけだろ」
 黒鋼は不本意だとばかりにそう切って捨てると、蕾の中を乱暴にかき混ぜた。
「あああっ・・・」
 ファイの足先から力が抜けてゆく。ぽとりと布団に落ちようとしたその足を黒鋼が掴む。そしてその膝を曲げると逃げられないように布団に縫い付けた。蕾と内壁への刺激は続いている。
「ああぁんっ・・・やぁんっ・・・くろ・・・ああっ・・・」
 黒鋼が奥へと指をすすめ、本数を徐々に増やす。その間、ファイは意味をなさない声で啼いているだけだ。ファイの汗が布団へと滴り落ちている。金の髪は紅潮した肌についていた。ファイの腹に残った白濁を指に掬い、三本目を入れると奥に進むとしこりに当たる。
「あ…っ!」
 顕著なほどに白い肢体がびくりとしなる。
「ここか」
「や、黒た…んっ」
 にやりと口角を黒鋼があげると、いやいやとファイが顔を横に振る。
「もう、いい…、から…っ。くろ、た…っ」
「……」
「指、や…っ…!んっ!」
 魔術師の言葉は聞かないふりをして、そのまま執拗にしこりに触れていると嬌声は更に高くなった。びくびくっと体が震えて、またファイのものから白濁が出る。
「………ッっ!」
 言葉にならない声が咽喉から絞り出されるように喘ぎ、先の絶頂よりも激しく消耗した体力に、身体は深く敷布へ沈み込む。蕾へ食まれたままの指は、きゅっきゅっ締め付けをしばらく繰り返したあと、弛緩したのを確認してから指を引き抜く。
「ふ…ァ……!」
 ぴくりと戦慄く肢体は、もう自ら動くことすら億劫なのか弛緩したまま投げ出されている。呼吸にすら甘さが混ざり、蕩けた表情のファイはぼんやりとしている。
「おい、まだトぶにゃ速ぇぞ」
「は、ぅ…ン、にゃ…くろひゃ、ま…?」
 力ない片脚を肩に担ぎ上げ、下肢の前を寛げる。外套や鎧装備は玄関口で脱ぐ習慣になっていたため、いつもなら着物が用意されているはずの籠にそれはなく、どうせファイとの二人暮らしなので気負うこともなく、上半身は裸のままだった。
「ァ、ぁア…っ、くろさまァ…」
 茫洋とした蒼は戒められたままの腕をこちらへ伸ばし、触れようとしてくる。それが健気でかわいく、脚を折り曲げながら身を屈めてやると、へにゃりと笑みを浮かべる。顔を唇が触れそうなほど近付けてやれば、自ら首へ腕を掛け、なおも引き寄せようとする。
「くろさま…」
 とろり蕩けた恍惚は、口吻けを強請ってくる。
「ぁ……、ッあっッ??!」
 しかし触れ合う寸前に、媚態によりそそり勃つ黒鋼を蕾へ宛がい、躊躇いなく腰を押し進めた。前触れのない挿入に、身を強張らせたファイは仰け反り様に雫と髪を散らし、なおも進めてくる黒鋼へ無意識の締め付けで出迎えている。
「ひぁっ…!」
 容赦なく奥をつかれ、ファイは激しすぎる責め苦からのがれようとした。しかし黒鋼の手が、ファイの腰を掴んでおり、逃げる術はない。きゅっとファイの中が収縮する。ファイの蒼い目からは、生理的な涙がぽろぽろとこぼれていた。零れる声は艶を含んでおり、黒鋼をさらに煽るものでしかない。
「んんっ…!」
 更によいところを攻めていると、びくっとファイの体が震える。耐えるようにして、ぎゅっとファイは目を瞑っていた。びくびくと白い肢体は痙攣したかと、黒鋼が思えばおさまった。はぁはぁと息をして、ファイが薄く目を開ける。
「…な、に?さっき、の…?」
 自分になにがおこったのか、と不安そうにファイは眉を下げた。ファイのものから白濁は出ていない。
 ……ということは。
「ドライオーガズムか…?」
 どこかの国で読んだ本を思い出し、黒鋼は呟いた。また始まった旅の訪れた国で、やけに詳しい本があり、その本でいろいろあったのだが、それはさておき。
「な、にそれ…?」
 聞き慣れぬ言葉が耳に届き、不安そうにファイが尋ねる。ファイは性的なことに関しては、昔にそういうものとして読んだだけで、興味は薄い方だ。悦楽が気持ちよいと、実際にファイに教えこんだのは黒鋼だ。
「育てがいがあるって話だ」
「??育てる??」
 ファイが疑問符を頭の上で浮かべる。体をすこし動かすのもだるい。黒鋼の楔が、ファイの体内から出て行く。今日はこのまま終わりかとファイが思っていたら、無理やり立たされ、壁を向いとけ、と黒鋼から言われた。壁にファイが顔を押しつける格好になる。
「え?なに?」
 さらしで戒めた両腕は、ファイの頭の上に、黒鋼の手により固定される。
「俺はまだイってねぇぞ」
 耳殻の裏へ口吻けられ、囁かれた低音に肌が粟立つ。壁へと追いやられて縋るように身体を支えるが、膝立ちでいるこの状態すら、腰が抜けていてガクガクと震えすら来している。いま黒鋼に吊られている手首の支えがなければ、ずるずると床にへたり込んでいる頃だ。
 黒鋼の片手が尻へ添えられ、親指で秘処をより割り開かれる。潤いが残るそこからくちゅりと水音が鳴るほどであり、再び宛がわれる剛逞へ期待に身体が切なく震える。
「……ッ」
「アぁっ…! ひ、ャぁッ…」
 息を呑む男の息遣い、今度はゆったりと埋められていく熱塊。熱を冷ます本能で壁へとより身を寄せるも、あまり効果は見込めない。
「く、くろ、さま…ぁッ、も…立って、られ…な、ヒぁっん!」
 いまにも崩れ落ちそうで、額を壁へ押し付けながら喘ぎと啼き声交じりに弱音を吐く。しかし男はそれを赦してはくれず、ちゃんと立てと命じられる。聞く必要がないと思って居ても、従順に躾けられたこの身と魂は、必死に崩れ落ちないように脚へと力を込める。しかし、そうすることで央へ進入している楔を締め付けてしまい、よく憶え込まされたその形をより鮮明に感じ取ってしまう。
「好いぞ、そのままだ―――」
「…ッアぁぁ!!」
 締め付ける最奥を無理矢理拓く強さで進まれ、いつもよりも強い刺激と衝撃に頭の中で光が散る。縋るものがないために、壁へ押し付けられた手はガリガリと引っ掻く。ひとつ長い息を吐き、身をわずかに起した黒鋼が、行くぞ、と合図を一方的に落として律動を開始する。敏感になり過ぎた身には、過ぎた快楽は苦痛にも似た感覚を伴って襲う。
「も、無理ッ! ダメ、オカシ、くっン! なぅうぅ、ひく……ア、やぅッ」
「泣いてんのか?」
 生理的と、限界を訴えた正気が混ざり合う泣き言に気付くも、動きは衰えず。ファイの膝が惰性で立っているのを確認し、腰を支えていた手をファイの頬へと触れると、がぶりと指に咬み付かれた。
 しかしそれも口寂しさから来る甘噛みだ。黒鋼はふっと笑うと律動を早めた。ファイの手がまた壁をひっかく。
「・・・っ・・・んんっ・・・はぁんっ・・・」
 壁をひっかく掌が熱を灯す。
 壁に擦られる身体が、熱を持つ。
 そしてファイの中心も、壁に擦られていた。ファイが更に激しく息を乱す。
「はぁぁっ・・・はぁんんっ・・・もぉっ・・・ダっあぁんっ・・・」
 最早嬌声は言葉の形にならない。まるで全身が性感帯のように、ファイに触れる全てが、ファイを昂みへと導きつつあった。
「おい、壁を汚すなよ」
 ファイの中心が壁に当たっているのに気付いた黒鋼が言う。
「そ、あぁんっ・・・む・・・ああぁっ・・・」
 黒鋼は顔に触れていた手を下ろすと、ファイの中心へと伸ばした。そっと中心を掴み、壁に当たらないよう上部を掴む。ちょろちょろと溢れ始めていた体液の出口を指で弄ぶと、ファイが更に高い嬌声で啼いた。
「あぁぁぁっ・・・も・・・だ・・・・あああぁんっ・・・はあぁっ・・・はぁぁっ・・・んんっ・・・あぁっ・・・あぁんっ・・・」
 ―――今日のファイは、異常だ。
 黒鋼は意識を持っていかれないように気をつけながらそんなことを考えていた。
 喘ぎ声は激しいし、きゅうきゅうと締め付ける後孔は、いつもに増して締まりが悦い。しかもその表情は恍惚で、それがまた黒鋼の腰遣いを早めさせる。
 黒鋼は、手首を押さえていた手を外し、ファイを抱きかかえるようにして胸に触れてみた。
「ひゃぁんっ・・・はあぁっ・・・はぁぁっ・・・」
 瞬時に嬌声が上がる。胸を摘まむ。ファイの尖端からはこれでもかと体液が溢れ出る。黒鋼はファイを扱いてやりながら腰遣いを深めていった。
 散々に黒鋼にイかされ、黒鋼が一度イったあともまた、体を嬲られた。ぐったりと意識を失ったファイは体を支えることが出来ず、崩れ落ちる。床に体がつくまえに、黒鋼はファイの体を受け止め、自身を引き抜く。引き抜く際、ファイの後孔からは白濁がこぼれていた。
 白い肢体の太ももを白濁が伝っていく様はどうにも劣情をかきたてられ、黒鋼は眉間に皺を寄せる。さすがに意識のない相手に、無理やり、事に及ぼうとは思わなかった。布団は汚れたので新しいのに変えないとだめだろう。
 ―――いや、先にこいつの体を清めてからか?
 風呂は湯を張っていたか、と黒鋼は思案する。だきかかえたまま、風呂場にいくと風呂はぬるま湯ではあったが湯ははってあった。とりあえず、ファイをお姫様だっこしたまま、己とファイの体を清めることにしたのだった。




◇◇◇◇◇




「………」
 静かに眠りから覚めたファイは、あたたかいひと肌に包まれていることに気付き、良く知り好く愛するひとだと無意識で認可した。触れ合う素肌が布地に心地好い。しかし、昨夜は彼を出迎えた憶えがないことを思い出した。ぼんやりとした思考で順序立てて思い出してみる。
 ―――えっと、体調良くないから早退させてもらって…。
 帰宅してすぐに自室へ向かった。身体の熱りは寝ていれば治まるだろうと布団を敷き、横になったところまでは記憶にある。
「そこから先…」
 憶 え て い な い 。
 そして、隣で健やかに眠る黒鋼は、いったいいつ帰ってきたのか。よくよく見れば、ここはファイの自室ではなく、黒鋼の自室だ。さらに身に憶え込まされた怠さが残り香の如く、昨夜何が起こったのかを語っている。
「ぇえー…?」
 何があったのか、正直訊きたいようで、聴きたくはない。うんうん唸っていれば、煩ぇと寝惚け声の男の腕に力が入る。
「ひゃ! く、黒っぴー! 当たってる!? ちょっと、起きてよ!」
「…煩ぇな…抱き枕は…黙ってろ……」
「抱き枕じゃないし!」
 尻に感じる硬さに、思わず身体がふるりと震える。奥へじわり広がる慾火がこれ以上広がらないように、一刻も早くその身を離したい。だが黒鋼は離す気がないのか、暢気に二度寝を決め込もうとする。
「っていうか、いま何時!? 黒さま仕事は?!」
「…休んだ。どうせお前も立てねぇんだから、休みの連絡はしたぞ」
 アレで。と指差された先には、連絡鳥として支給された梟だ。籠には収めず、止まり木があればそこへ居るよう躾けられているため、いまは同室の止まり木で目をぱちくりとさせている。
「えっとぉ・・・もしかして、白銀に全部見られちゃったのかなぁ?」
 血の気が引くような恥ずかしさに耐えながら何とか問いかけると、黒鋼がゆっくりと瞳を開けた。
「・・・なんだ、見せたかったのか?」
「ちっ!違うもんっ! 聞いただけだよっ」
 狼狽えるファイを面白そうに黒鋼は見て、それから残念そうに言った。
「あいつが見てたのは、寝顔だけだ。安心しろ」
 ほうっと大きくファイが息を吐いた。黒鋼の腕がファイをぎゅっと抱き締めた。耳元に口を寄せる。
「お望みどおり、もう一回してやろうか?」
「なっ・・・もっ、もう無理!無理だから!」
 ファイは慌てて拒否したが、黒鋼は更に尋ねた。
「夕べは異常に感じてたからな。あれだけ乱れれば、劣情も落ち着いただろう?」
「れつ? っ!!」
 真っ赤な顔で口をパクパクさせるファイに黒鋼はたたみ掛ける。
「今日はどうせ休みなんだ、落ち着いたところでもう一度愛してやる」
「えっ、遠慮、します!」
 ファイが叫ぶと黒鋼はファイの腰を撫でながら言った。
「ま、そうだな、今は止めとくか。ちょっと撫でたくらいじゃ、その気にならねぇみたいだしな」
「『今は』って何?黒たん?!」
「あぁん?そのままの意味だろ」
「今日は絶対しないからね!」
「言ってろ」
「もう! もーうっ、ぜぇえっっったい!! しないし! サラシでガードするも…ぅ、コホッゴホッ……!」
 逃れられない腕の中で、せめてもの抵抗に叫べば、掠れていた咽喉が痛みを伴い、咳き込むことになる。背を丸くしていれば、武骨な掌が背を撫ぜて宥めてくれる。咳が落ち着けば、用意してあったのか、水差しから湯呑に注いだ水を口移しの大サービスで飲ませてくれる。しかし、ある違和感に気付く。
「―――あれっ?! 服着てない!!?」
「気付くの遅すぎだろうが」
 腰や背に感じていた黒鋼の手は、てっきり着物の袷から侵入されたものだと思っていた。しかし肩にも感じる衣擦れと布団の隙間から入った外気、背に感じていた心地よすぎる体温に、ようやく身に纏うものが布団以外ないことを知った。黒鋼も着物を着ていないのかと思えば、しっかり下だけ穿いていた。
「ズルい! 黒ぴっぴだけー!」
「着せようとは思ったんだがな、冬でもねぇし。お前の肌、触り心地がいいからな」
 またするりと腕が腹へと廻り、寝惚け拍子で云われた抱き枕宜しく、逞しい身体にやさしくも強く強く抱き寄せられる。そして陶器のように白く、高質な絹のように手触りのいい肌を腹から胸へ掛けて撫で上げる。
「そういえば、お前なんでサラシなんて巻いてたんだ?」
「え…っとぉー、そ…それはー」
「腹じゃなく胸に巻いてんだから、腹が冷えたわけでもなさそうだしな」
 怪我を隠してかと思いもしたが、なめらかな雪原は多少の虫喰われなどで掻いた跡がある程度で、異常は見た限りではなかった。しかし広い掌が胸の粒を掠めると、ファイから鼻に抜ける啼き声が零れ、思わぬ反応にピタリ手を止めた。
「…なんだ?」
「なななんでも、ぁン! ッちょ、触らないで…!!」
 もう一度確かめるために黒鋼の指が、意思を以て胸の果実に触れると、抑えきれない喘ぎが唇から転がり落ち、慌てて黒鋼の手を掴んで胸から引き剥がそうとする。思いの外あっさりと武骨は離れ、ファイは胸を庇うように身を丸める。その顕著すぎる反応に、肘をついて上体をわずかに起き上がらせた黒鋼の表情は、ファイ以外が見れば人相が悪いと云われるだろう。
「…なるほどな…。胸がいい具合に育ったな」
「うぅぅぅうっ! く、黒わんこが…悪いんだから…っ」
「俺ばかりが責められんのは心外だな」
「黒わんわんが悪いんですー! 胸ばっかり、い…弄るからぁ!」
「だから、サラシ巻いてた…と」
 既に半泣き状態のファイは、過敏になり過ぎた胸の果実はツンと主張をしたままで、覆う掌にまで擦れるだけで、ゾクゾクとした愉悦が背筋を痺れさせた。痒みにも似た感触は、掌でぐりぐりと押し潰す動きをすることで一層強まり、さらに刺激がほしいと掌から指先へと自慰の対象を変える。
「……はッン…、……ふぅ…っ」
「おい、何勝手に盛ってんだ」
「あッッ!」
 自ら慾の悪戯となっていた手指を黒鋼に掴まれ、その場所から引き離される。するとわずかに熱が疼く、もどかしい感覚が胸に留まっているような気がする。
「ヤだ…離して…」
「………ここまで過敏になってんじゃ、衣擦れでも感じる、か…」
 慾火に潤む蒼玉は、昨夜の二の舞になりかけている。嘆息した黒鋼はどうしたものかと。このまままた胸への刺激を与えれば与えるだけ、底なし沼に水滴を落とすようなもので、解決には至らないし、さらに深みに嵌っていく。
「自分で…触っちゃダメなの…? 黒さまが、触ってくれるの…?」
「―――あぁ、そうだな…俺が…」
 あっさり色香に中てられた黒鋼が、ファイを仰向けに転がし、魅惑的に紅く色付いた果実が、淡雪色の肌には毒々しいほどに映える。
「ホーゥッ!!!」
「?!!」
 誘われるままにそこへ口吻けようと身を屈めるも、存在をすっかり忘れていた梟が、ひと声大きく鳴いた。思わぬ乱入に、ふたり共に正気の沙汰となり、慌てて身を離した。
「く、くく黒りんのえっちー!」
「はぁあ!? 勝手に盛ったのはテメェだろうが!」
「黒さまのせいだもん! 黒さまのせいだもん!」
 二人が仲良く言い争うのを、白銀は「寝られないよ」と言わんばかりの表情でみつめているのであった。


END




続きには小噺 名前決定戦を収録しています。
(PCからご覧の方は少しスクロールしてください)






ツギハギだらけのワンチャンス

リレー小説


〜前書き〜

紅理様主催の茶会にて、4月9日からリレー小説に参加させて戴きました。
参加者と執筆順は次のとおりです。
1:紅理 様
2:銀鷹
3:フシギ 様
テーマ:日本国永住、痴話喧嘩し媚薬をファイが間違って飲む。
初めてのリレー小説への参加でしたが、とても楽しく書かせて頂きました。お二人ともありがとうございました。



なお、大変エロイ展開になっておりますのでご注意下さい。








 日本国。
 白鷺城の廊下で黒鋼にばたりと会ってしまい、喧嘩した手前ぷいっとファイは顔をそらしてしまった。
 喧嘩してまだ仲直りはしていない。一週間になる。
 そろそろ仲直りしなければ、とファイは思ってるがなかなかそうは行かない。ファイが顔をそむけると黒鋼は眉間にしわを寄せていた。変なところで意地をはっているからとは思うのだけど、難しい。すれ違う度に、ぷいと顔をそらす度に、胸がちくんと痛む。
「何かきっかけがあれば良いんだけどなぁ・・・」
 城下を歩いていると、不思議な一軒の店があった。どう言う訳か中に入らなければならない様な気がして、ファイは店の中へと一歩を踏み出した。
 一方、白鷺城では。
 嫁に無視をされている姿を度々目撃されている黒鋼は、好奇の眼差しに曝され、眉間の皺がまた一本増えていた。鬱陶しいそれらへ睨みを返せば、蜘蛛の子を散らすように散っていくクセにと嫌気がさす。喧嘩の原因など何だったのか、ここ一週間ずっと考えているのに、思い当たらない。訊いてもファイはますます臍を曲げるばかりだ。
 誰に相談することも出来ず、鬱とした気分が降り積もっていく。謝ればいいだけの話だ。そうは思っても行動は難しい。黒鋼は任務をしながら、眉間にしわを寄せていた。



◇◇◇◇



 店の中は暗い。
「あのー…」
 声をかけると奥から年老いた女性がでてきた。あら、と笑まれる。にこりとファイも会釈する。
「なにか困っておいでで?」
「え?」
 ファイの反応から確信したのか、奥からなにやら小箱をとりだし。ファイのそばの机にそれをおいた。蓋を年老いた女性はあける。中には小さな瓶が入っていた。
「それを使いなさると、解決するじゃろうて」
「えっと、」
 どうぞ、と瓶をおしつけられた。透明な液体だ。ファイは一度だけ首を傾げてから口を開いた。
「えっとー、オレお金忘れちゃったんですよねぇ」
 さすがに妖しげな小瓶である。なんとか断ろうと、ファイはふんわりと笑ってみた。
「どうぞ、持っていきなされ」
「でっ、でもっ」
 怯むファイに店主であろうその女性は、もう一度強く小瓶をファイに押しつけた。
「わ、わかりました・・・いただきます・・・」
 どうにも断り切れずに、小瓶を受け取ってしまったファイは店を出る。
「どうしようこれ…あとで高額金とか請求されないかなぁ…」
 まさかの悪徳商法だったらと恐怖が迫り、やはり返そうと店を振り返る。しかし、そこには確かに在ったはずの店が失くなっている。
「お店が、失くなってる…?!」
 これではまるで、〝彼〟の店のようだ。そこに在って、ない〝店〟。
 思わず握った手には、老婆から押し付けられたも同然の小瓶が在る。
 ならば、夢ではない。
 それとも黒鋼や知世姫が云う、妖に化かされたのだろうか。しかしそうは云っても、黒鋼と仲直りはしていない状態だ。よし、とファイは瓶を見つめる。
「使ってみようかな…」
 だって現に黒鋼と仲直りはできてない。どんな効能があるのか、と不安にはなったが決意したファイだった。



◇◇◇◇



 黒鋼は屋根の上で盛大な溜息を吐いた。
 今日の任務はさっきやっと終わった。こういう時に限ってミスをする奴がいる。そしてイライラしながら怒鳴りつければ、ケンカして機嫌が悪いからだと陰口を言われるのだ。
 見上げれば大きな月が白鷺城を照らしている。大きく美しい月と、ファイを重ねて、黒鋼はますますファイに会いたくなってきた。しかし、会うのなら、謝らなければならないだろう。
 黒鋼はファイに逢いに行くべきか、月を見上げながら考えていた。任務も終えて、不寝番以外はそれぞれ宿舎で休むなりの時間だ。ファイのこともあり、宿舎暮らしから家持になった手前、帰らないのもおかしな話である。だが、帰れば逢いたいが逢いたくはない家人が居る。喧嘩をしても食事を用意してくれるのは、良妻なのか意地なのか。
 ―――こんな処でぐだぐだと考えていても仕方ない。
 以前は気にしなかった、こんな為体を部下や周囲に見られ続けるのも、男の矜持がある。見栄を張るわけではないが、己だけの陰口がファイにまで及ぶのは、いい気はしない。
「………帰るか…」
 屋根から地面に着地し、家路を黒鋼は歩く。先に謝ればすむ話なのだが、日があき意気地になっているところも黒鋼は自覚している。目下の悩みの種だった。



◇◇◇◇◇



 二人分の食事を用意し、着物にしていたたすきがけの紐をファイは、するりと解いた。居間の机に置いた例の小瓶をちらりと見る。さてこれをどうするべきか。
(あのお店のひとが言ってたのは、オレがこれを飲むってことを言ってたんだよね…?)
 しばらく迷っていたが、恐る恐る瓶の蓋をとり、匂いをかぐと特にあまり匂いはしない。少し甘い匂いがするかなという程度だ。ファイは意を決してそれを自分の湯飲み茶碗に数滴垂らした。
 一瞬黒鋼にも、と思ったが、得体の知れない液体だ。黒鋼の明日の任務に差し支えたら困るし、自分だけにしておくことにする。そろそろ帰ってくるはずの黒鋼のために、二人分の茶を淹れた時、計ったかのように玄関が開く音がした。
 ―――か、帰ってきた!
 玄関の音に条件反射で動いてしまい、喧嘩中ということも忘れて出迎えてしまうところだった。
「帰ったぞ」
「あー、おかえり」
 気のない返事をし、黒鋼の気配もいくらか強張ったのを感じた。
 ―――や、やっちゃったよぉお!
 こんなはずじゃなかったのに、と気落ちする。微妙な空気のあとに沈黙。
 ―――いつもどうしてたんだっけ。
 とはファイは思ったが、そのまえに喧嘩中だったと認識する。
 ―――怪我してないかなー。
 ちらりと黒鋼を見ると、忍者装束から普段の着流しに着替えていた。怪我は今日はしていないらしい。ちらりと見るだけではっきりとは、ファイは確認してないが。
 ―――喧嘩中でも家に帰ってきてくれるのは、仲直りする機会まってるのかな。
 そのことに、ほっと安堵する。ちらり、ちらりと見ていたら視線が合い、また日中と同じように黒鋼からファイは視線をそらしてしまった。
 仲直りしたい。
 ぎゅってしてほしい。
 髪にさわってほしい。
 ―――黒、たん。
 心の中でファイが渾名を呼ぶと、少し体が熱くなった。思わず自分を抱き締める。
「ん?どうした?」
 黒鋼の声に顔を上げると、心配そうに自分を見つめる紅い瞳と出逢った。
「えっ、あっ・・・別に・・・」
「寒いのか?茶ぁ、入れたんだろ、飲め」
 黒鋼がいつものように自分の向かいに座り、茶を飲む。
「あ、うん・・・」
 ファイは黒鋼がいつも通りに戻ったようで安心した。
 ―――オレも、お茶飲もう。
 意を決して茶を飲む。
 なんだか甘い。そして、温かい。
 身体の中心から熱が発生しているような、そんな感覚。
「おい、どうした?」
 黒鋼が驚いた顔で自分を見ている。
「どう、って?」
 ファイは小首を傾げた。黒鋼は帰ってきてからというものの、ファイの様子がおかしいことに気付き、そっとファイを観察していた。おかしいと言っても、なんと言えば良いのか。
 初めは喧嘩してぎくしゃくしているだけだったはずが、いつの間にか所作が艶を増している。心なしか、目が潤んでいるようにも見える。
 ―――誘ってるわけじゃねぇよな・・・。
 黒鋼は目のやり場に困りながら、表面上は何とか繕って茶を飲んでいた。
 帰宅の時間を計ったように茶は用意されていた。食事の香りも土間方向から香ってくる。準備はしてある。またファイへ視線を戻すと、先よりも身体がゆらゆらと揺れている。具合でも悪いのかと思い、喧嘩をしている場合ではないと黒鋼は意を決した。
「おい、具合が悪いなら横になるか?」
「え……、ッ?」
「おいっ?!」
 瞳が虚ろになったファイが、黒鋼の呼びかけに顔を上げるも、バランスを崩してしまい、床に倒れ込む前に黒鋼が手を伸ばして受け止める。
 ―――熱い?!
 着物越しにでも体温の低めのファイが熱いということは、発熱しているらしい。こんな具合が悪くなるまで見抜けなかったことに、知らず舌打ちをする。
「く、黒様」
 白い手が黒鋼へと伸びる。空を思わせる目は潤み。ファイの頬は赤みがさしていた。熱がでたときはどうすべきだったか。黒鋼は必死で記憶をたぐりよせる。まずはとにかくファイを寝かせようと寝所に連れて行くことにした。お姫様のように抱き上げる。
 黒鋼に伸びたファイの腕は首に掴まるようにかかり、暴れることも無い。布団に寝かせ、手ぬぐいを濡らしに行こうとすると、ファイの手が着物を掴んでいた。
「離せ」
「やだ」
 黒鋼は小さく溜息を吐くと、無理矢理ファイの手を剥がそうとした。
「ねぇ、黒様」
「あん?」
「暑いから、脱いでいい?」
「はぁ?」
 困惑する黒鋼をよそにファイは帯を解く。袷からほんのり赤く色づいた肌が表れ、黒鋼はゴクリと唾を飲み込んだ。



◇◇◇◇◇



 ―――ダメだ、あのお茶を飲んでから、クラクラする…。
 心を落ち着かせるために飲んだはずなのにと、意識が酔ったときのように朦朧とする中で、湯飲みに関する記憶を辿っていく。
 黒鋼が帰宅するだろうと、ついいつもの癖で用意してしまった。中身は至って普通の緑茶。昨日も飲んだ同じ茶葉だ。
 ―――そういえば、ちょっとだけ…甘い香りがしたような…。
 甘い香りの原因は、なんだったか。そうだ、あの小瓶を数滴、入れたのだ。あの液体が何なのか、確かめもしないまま。
 それほどまでに、黒鋼と仲直りをしたかったのだろうか。
 勝手に動く身体は、熱いからと着物をすでに脱ぎ捨てて、ころりと敷布へ身を投げ出し、布の冷たさに息を吐く。
 ―――オレって、喧嘩するの…初めてかも…。
 ダカラ、仲直リモ、ハジメテ。
 そろりと黒鋼に視線を向けると、今度はばっちりと視線が合う。液体がなにかは判らない。これで仲直り出来るのかも判らない。でも。
「黒さ、ま。…ねぇ、シよう?」
 身体の熱をどうにかしたい。
「…具合悪いんじゃねぇのか」
 眉間に皺を寄せ、黒鋼が苦言する。何か耐えている表情だ。
「きっとこれ黒様にしか治せないから」
 だから、シたい。
 言葉に含ませて精一杯ファイは誘った。黒鋼の手が額に伸びる。熱の有無を確かめるように、額から頬へ、そして首筋へと掌が滑ってゆく。鎖骨を撫でる。下へと動く掌は、ファイの身体をゆっくりと撫で始めた。
「熱があるわけじゃ、ねぇのか・・・」
 呟くと、ファイが答えた。
「ん・・・だから、黒様にしか治せないって・・・」
「そうか」
 黒鋼は短くそう言うと、おもむろにファイに口づけ、言葉を奪う。
「んっ・・・はぁっ・・・」
 ファイが息を継ごうとするだけで、黒鋼は煽られていた。左手で脚を撫でる。右手で胸に触れる。小さな飾りはツンと立ち上がり、黒鋼はそっと摘まんでみた。
「ああぁっ・・・ああんっ・・・」
 肌を軽く撫でただけで、胸の果実は粒となり、感度が異様に高いように思うが、そんな違和感なんて後回しだと、欲望の波に攫われた。ファイから香り立つ何か。それに中てられたと云ってもいい。
「あっ…くろさ、ま…!」
 覆い被さってきた己に、ファイは自ら手を伸ばし首や肩へ絡める。
 いつもは体温の差があり、熱を分け与えて同じ温度にするのに、最初から互いが同じ温度だ。黒鋼の手が、ファイの身体の下におりていき、太ももを触る。
「く、ろさま」
 手の動きを黒鋼が止めると。眉を下にさげてファイが視線だけで問うてきた。黒鋼はニヤリと口角を上げた。
「そんなに待ちきれなかったのか?」
「黒様の・・・イジワル・・・あっ・・・」
 内腿を撫でる手がすっと上へと動き、ファイの中心を優しく掴んだ。無骨な手、力強いのに優しい手がファイをどんどん昂みへと近づけてゆく。
「はぁっ・・・あぁっ・・・」
 嬌声(こえ)を上げるファイに更に煽られた黒鋼は、胸の飾りに口を寄せた。尖りを口に含む。
「ああぁんっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
 ファイの唇から、高い啼き声は歯止めが失く、羞恥もまた失いように思う。
 始 め か ら ト ん で い る 。
 先よりも荒くなる呼吸。体温もさらに上昇したのか、汗が肌を湿らせる。絶頂へ導くための手の滑りもよくなり、水音も早い段階から鳴り出している。
「ヤ、ん…くろ、しゃ…まぁ…っ、はやくぅ……!」
 びくりと腰に留まらず、全身に痙攣が弱く広がり、絶頂が近いのだと察する。胸の果実を含み、虐めている頭部は、当にファイの両腕によって拘束されている。
「んぁっ、ア! も…でちゃッ、くろしゃまッ、オレ、オレ…!! ダメ、ダメぇえ…ッッ!」
 何がダメなのか、子どものように言葉を羅列させ、白い肢体は絶頂を迎えて酷く敏感に、敷布の上で跳ね上がる。
 はぁ、はぁ、と荒い息をファイをついた。そんなファイの様子をちらっと黒鋼は見た。布団についた両脚を広げてみたが、抵抗はない。抵抗がないのを良しとして、ファイの後孔に手をのばすと、さきほどの白濁が後孔にまで垂れていた。一度達したとはいえども、ファイの後孔の入り口付近に触れただけで、びくんっと反応する。
 黒鋼はそのまま後孔に触れた。自ら指を受け入れようとしているかのように、優しく解すこともなくすっと入ってゆく。中で指を動かすと、ファイが再び身体を震わせた。
「ああぁんっ・・・はぁっ・・・くろ・・・さまぁ・・・っ・・・」
 ファイが黒鋼にしがみつく。再び指を動かしてやると、ファイが訴えるような瞳で見つめてきた。
「黒、様・・・早く・・・お願い・・・」
 欲しくて仕方ないのだろう、黒鋼にしがみつく手に力が入る。
「どうして欲しいのか言ってみろ」
「っ!黒・・・様・・・お願い・・・」
「ちゃんと言えばしてやるよ」
 黒鋼の言葉にファイは頭を振った。
「なら、このままだ」
「黒様ぁ・・・お願い・・・い・・・れて・・・」
 ファイが願いを口にした瞬間、ファイは俯せに布団に押しつけられていた。
「…あっ」
 強制的に体勢を変えられた衝撃を自覚する頃には、やわらかく解けて物欲しそうに疼く秘処へ、楔の先端を宛がわれていた。ファイが感触を認識した反応を確かめてから、黒鋼は侵入を始めた。
「ふアぁッv あッア、ァッあ、ンひゃ…v」
 ―――黒さまだっ! 黒さまが、黒さまがオレの央に挿入ってる…!
 ファイの普段の夜の営みでは見られない、慾に溺れた悦びように、色香に中てられた黒鋼は違和を感じる余裕がない。自身を収める動きを止め、快楽に打ち震えている尻を軽くぺちんと叩いてやる。
「あンッ。…黒さま? なんで止まるの?」
 肩越しに振り返る表情は、無垢なほど不思議そうだ。その瞳が情慾に澱んでいるのを除いて。
「云えばしてやる。俺はそう云ったぞ」
 そう切り返してやれば、疑問符を浮かべる。そして先の自分の言を思い出したのだろう。閃いた表情をし、また情慾の蒼が見上げてくる。
「アツいの、いっぱい、いっぱい! オレに注いでほしい、です!」
 頂戴、っと潤んだ瞳が黒鋼に乞うてくる。ぞくり、と黒鋼はした。
「で?」
 意地悪く黒鋼は聞き返す。
「具体的になんだ」
「…ッ!」
 尋ねると、「い、いじわる!」とファイが言う。
「おまえをこのままにしてやってもいいんだぞ」
 戯れに後孔を黒鋼が指で入り口付近にさわると、白い体が反応する。
「あ、…うっ」
 お遊び程度に後孔にふれていれば、ファイはその度に声をもらしていた。
「放置されるのと、続けるのとどっちがいいか、返事次第だな」
 言ってる間も、ファイのものに手を這わせ、黒鋼は弄んだ。
「や、だっ。ほし…いの…!」
「何を?」
「く、黒、様の…っ」
 ふれている手の動きを黒鋼は止めない。
「黒様の、おおきい、おちんちんちょうだい…っ」
 言葉の終とほぼ同時に黒鋼が再び侵入を始めた。
「ああっ・・・!」
 恍惚の表情を浮かべるファイの胸へと手を伸ばす。尖端をつまみながら反対の手でファイの中心を扱いてやると、ファイは背を反らせて悦んだ。
「く、ろさ、まぁ・・・もっと・・・お願い・・・」
 黒鋼の両手がもたらす刺激だけでは足りないのか、ファイが更にねだる。腰を艶めかしく振り、黒鋼を煽り続けるファイ。
「この口で、ちゃんと言え」
 黒鋼がファイの唇に触れた。
「黒様、ねぇ、お願いだから・・・ああっ・・・」
 脚の間から離れた手が胸をくりくりと摘み、快感が突き抜けても、ファイの願いは止まらない。
「おね、がい・・・動いてぇっ・・・」
「お前、さっきから〝お願い〟ばかりだな」
 思考が巧く回っていないのは判り切っている。何度も繰り返す言葉に、黒鋼の加虐心は増すばかりだ。
「え……? 動いて…って、云ったよ?」
 唇に触れていた指は、口寂しい慰めのようにファイ自らが咥え、舐めて甘噛みの愛撫をしていたのを引き抜く。銀糸が指先と唇を繋ぐも、ぷつりとすぐに切れる。
「具体的に云えねぇんなら、ここで終いだな」
 唐突に切り上げる算段をされ、指を回収された次は、熱塊も回収するために体内から退いていく。
「ン…ゃ、ヤだよぉ!」
 内壁を擦られる快楽も混ざりつつ、ファイは拒絶の言葉で啼く。引き止めるために秘処は、きゅうぅ、と収縮する。ひとまずは抜かずに、黒鋼は会話を再開させる。
「一辺倒でつまらねぇ。俺は、どうやって 犯 さ れ た い のか、訊いてんだ」
「どう…、やって…。黒さまの…スキに」
「なら、放置っていう手段もアリだな。観ててやるから、ひとりで勝手に盛り上がって、ひとりで乱れてろ。俺はどうやって犯されたいか、と聞いてるんだが」
 ファイから白濁がでてるそれに、黒鋼は手をやり、根元をゆるく握る。
「ひ…っ!」
 びくっとファイの体がこわばった。予想外だったらしい。緩く握られただけなのに、たらたらと流れる体液が黒鋼の手を濡らして、ファイの欲が更に増してゆく。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
 ファイの息づかいが黒鋼を煽るも、黒鋼は手を添えたまま、動こうとはしなかった。
「黒、様・・・」
「なんだ」
「手、お願い、動かして下さい」
「自分で動け」
 黒鋼の冷たい答えに、ファイは戸惑っていたが、最後には自分で腰を動かし始めた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・ああっ・・・」
 ほんの少しだけ緩い黒鋼の手。ファイは腰をくねらせ、黒鋼の掌に自身を擦りつけるように腰を振った。腰を自ら振るということは、央へ納まる楔とも連動し、次第に前と後ろ、どちらの快楽を追っているのか曖昧になる。
「ぅあッン、ヤ、あッアッ!」
 粘着質な水音、艶めかしい嬌声、色香漂う荒い吐息。室内はそれだけでとても淫靡であり、咎める者も、邪魔も入らずに空間は支配されたまま。
「あっッ、くろ、ひゃまぁア…! 動いてぇ! オレの、ナカ…ぐちゃぐちゃなのぉ…!」
「そうだな……。絡みついて、締め付けて。離しゃしねぇ。旨そうにしゃぶりつくなぁ?」
「ひゃあぁッ……ッッ!!」
突き出されるリズムへ合わせ、濡れそぼった秘処へひと突きしてやれば、嬉しそうにそれは好く啼く。反応は恐ろしく良い。そのまま黒鋼が突いていると、ぐっと後ろがしまる。
 普段より様子がおかしかったのは、黒鋼との情事がもの足りなかったのか。それとも喧嘩してる最中に性欲をもてあまして誰かとシていたのか。ファイのいいところをつきながら、黒鋼は内心どろっとしたものが渦巻くのを感じていた。
 無意識に律動が早まる。最奥を突けば突くほどファイは乱れ、内心の疑惑は大きくなり、攻めが激しくなる。そしてそれに応えるファイの身体は、更に黒鋼を煽り続ける。やがて添えていただけだったはずの手も、無意識にファイ自身を握りしめていたようだった。
「ああっ・・・くろさまぁんっ・・・」
ファイが一嬌声啼き、意識を手放した。しかし黒鋼は攻め続ける。意識を失い、激しい律動に起こされ、それを何度も繰り返した。
「はぁっ・・・なんで今日は・・・」
 こんなにエロいんだ、という言葉を飲み込み、もう一突きすると、黒鋼は遂に白濁を放出した。ファイも同時に果てている。
 黒鋼は息を整えながら、隣で眠るファイを見つめていた。



◇◇◇◇◇



 雀が鳴く声が庭から聞こえ、障子越しに柔らかな陽射しの感触もする。もう大分陽が高いようだ。はて。それではいまは何時なのか。
「朝か!?」
 がばりと黒鋼はいつもにはない、寝坊に大きく掛布団を跳ねさせて起き上がる。
「ぅぅ…ん」
「!」
 声を聞きつけ見やれば、素肌のままのファイが横たわり、寒さに身を縮ませている。涙の痕も、泣き腫らした痕も白い頬に残っており、昨夜のことが走馬灯で脳裏を駆けていく。
 思い出し、目許を片手で覆う。在られもない、己と家人に羞恥さえ湧きそうだ。ふるっとファイが震えたため、黒鋼はファイに布団をかける。
「むーっ」
「変な寝言だな」
 戯れに鼻をつまんだら、むぅっと顔をファイにしかめられた。ぱっと手を離す。何の夢をみているのか、とそのままファイをみていたら、ぴくりとファイのまぶたが動いた。起こしてしまったらしい。目がうっすらとあく。
「くろ、たん」
 呼ばれる渾名。へにゃんとファイが笑う。
「おはよー」
「おう」
 黒鋼が答えると、へにゃんとした笑みはそのまま。いまだ夢見ごこちらしい。昨晩のことは覚えているのか。そのまま、黒鋼がみていたら、ファイの目がまるくなった。ついで、自分の姿と黒鋼を交互に視線をやるファイ。ぼんっと真っ赤になり。ファイが動こうとして、「!!いたっ!」と声をあげた。
「無理すんな」
 そう言いながら黒鋼がファイにのし掛かる。
「えっ、黒、様・・・オレ・・・これ以上はやばいんですけど・・・」
 黒鋼は、顔を引きつらせてそう言ったファイの顎を救うと、唇が触れそうな位置まで顔を近づけこう言った。
「で?どういうことだ?」
「え?どういうって・・・っ!!」
 ファイは一瞬で昨日のことを思い出した。そう、昨日は不思議な店で貰った怪しい液体を茶に入れて飲んだのだ。
 何の効果があるのかも分からないまま。
 そして身体が熱くなって、すごく欲しくなってしまって・・・。
「え・・・と・・・・」
 思わず目を泳がせると、容赦ない声が飛んだ。
「俺の目を見ろ」
 恐る恐る瞳を合わせる。黒鋼は明らかに答えを待っている。そして気が短い。こうなってしまっては、逃げられないことを、ファイは経験から知っていた。
「あのね、よくわかんない・・・」
 自分でも分からない液体の事をどう説明したら良いのか分からず、それだけ言うと、案の定黒鋼は不機嫌そうに唸った。
「あぁん?」
「えっと、お店で小瓶を貰ったの・・・えっと・・・でも、何なのか説明もなくて・・・」
「はぁ?」
 ファイのたどたどしい説明に黒鋼は何となく話は理解したが、瓶を貰うというのがよく解らず首を捻った。
「なんだ、貰ったってのは」
「店自体は、四月一日くんが居るみたいな〝店〟と似たようなのがね、あって…」
 引き込まれたようにふらりと入ることになった店。そこの店主だろう老婆に仲直りのきっかけになるからと、渡されてしまった小瓶。
「それで店を出ちゃったんだけど。やっぱり返そうと思って振り返ったら、店ごとなくて…」
 仕方なしに持って帰ってきたが、試しにと数滴を垂らした茶を飲んだのだと、赤裸々告白をしてしまった。はぁ、と黒鋼がため息をつく。だって、とファイが言った。
「謝りたかったけど、謝れなかったんだもん…。意地になってたって言うか…」
 ぼそぼそファイが続ける。
「嫌いになった…?オレのこと」
 じっと黒鋼を、ファイは見る。蒼い瞳には涙がたまっていた。
 ―――は、反則だろ・・・。
 黒鋼は内心呟いた。そんな潤んだ瞳で嫌いになったのか、などと問われたら、許すしかないに決まっている。しかし素直に告げるのも悔しくて、黒鋼はぼそりと呟いた。
「もういい」
「え?」
目の前にいるのに上手く聞き取れず、ファイが聞き返すと、黒鋼はファイの頭をわしゃわしゃした。
「わー、黒さまっ!」
 逃げようとしても無駄である。しかし黒鋼は不意にその手を放すと、ファイに言った。
「その小瓶を寄越せ」
「え?」
「んなアブねぇモン、いつまでも持ってるわけにもいかねぇだろ。処分する」
「う、…うん。そうだよね……」
 あの小瓶は何処へやったかと、昨夜の記憶を辿ってみるも、茶へ入れたあと座卓へ置いたような気もする。そして、夕餉の支度もそのままに。あの状態から、片付けられている可能性はない。ならば。
「多分、食卓の上にあると思うけど…」
 徐に黒鋼は立ち上がる。下肢には自分だけしっかり穿き、寝所をあとにする。動きにくい身体で、何とか傍らに脱ぎ捨てられていた着物へ手を伸ばし、袖を通す。
 しばし待っていれば足を音がいつもより控えめな黒鋼が戻ってくるのが判った。出て行ったのは襖がある廊下側なのに、何故か庭に廻っている。唯一庭に面した寝所の廊下側は障子であり、その影が障子越しに映りこむと、障子が開けられ、何処か釈然としない表情があった。
「おい。小瓶、見当たらねぇぞ」
「えぇ?!」
 使うと解決する、と店の主は言っていた。…ということはつまり。
「解決したから、役目を終えたから小瓶はなくなった…?」
 ファイは思ったことをそのまま、声にだしてしまったが、そう考えるとしっくりくる。しかしそれを聞いた黒鋼は片方の眉を上げた。
「役目を果たしたからといって、勝手に消えるか?」
「んー。四月一日君のミセみたいなお店だったから、何か力があったのかもねー」
「だったらお前が受け取った時に気付くだろうが」
「うーん・・・」
 ファイは暫く首を捻っていたが、最後にこう言った。
「やっぱりわかんない!」
「なんでだよっ!」
 ファイはペロリと舌を出した。
「だから、魔力に気付かないくらい、凹んでたってこと」
「解決になってねぇ」
 黒鋼はむすっとしたままそういうと、再び口を開いた。
「茶。変な薬の入ってない奴な」
「はーい」
 ファイは明るい声でそう言うと、ニコニコしながら台所へと向かったのだが。
「うっ!!」
 元気よく廊下を歩いていたかと思えば、壁に寄りかかりずるずると崩れていく。
「どうした?」
「……こ―――腰、痛くて…歩けない…っ…」
「………あー」
 その要因には、充分すぎるほど心当たりがある。ううう…と蒼い表情をしている家人の傍らへ屈み、ひょいと軽い身体を抱き上げる。
「黒たん…」
「湯、沸かすくれぇしか手伝えねぇぞ」
「…何云ってるのさ、オレよりお茶淹れるの、巧いクセに」
 照れ隠しにもならないそんな云い訳を、くすくす笑う。便乗とばかりに首へ腕を廻し、今日の乗り物となってくれた彼へ、GOの合図を。
 その日、黒鋼は休みを知世姫に申請し、登城するのは夕方と相成ったのだった。



◇◇◇◇◇



 それから数日後のとある日。白鷺城の一室。蘇摩が机に小瓶を置く。
 上座には知世姫が座り、知世姫の隣には蘇摩が控えている。下座には黒鋼が座っていた。
「この小瓶の中身のことですが」
 蘇摩が話し出す。小瓶とはファイが怪しげな店でもらったという小瓶だ。
「中身を確認したところ、催淫剤の効果をもつ薬のようです。いわば、媚薬ですね」
「媚薬か」
 なるほど、と黒鋼は心の中で呟く。ファイの様子は媚薬を飲んだせいだったのか、と合点がいった。
「このようなものをファイさんに手渡したという人物は今、究明中です」
 蘇摩が続ける。それまでだまっていた知世姫が、「…にしても」と一言言った。
「何が原因かは知りませんが、ファイさんと黒鋼が喧嘩したとき、ファイさんはとても元気がなかったのですわよ。食事も少なめで、表情は暗くて。この薬をのまなければいけない程にファイさんは悩んでいらっしゃったのでしょう?」
 なにかいいたげな黒鋼を、知世姫は真っ正面から見据える。
「何か申し開きがありまして?」
 にっこりと知世姫が微笑んだ。むかしから黒鋼は知世姫には勝ったことがない。言い合いにしろ。
「これから善処する」
 黒鋼は一言告げた。にっこり知世姫は微笑む。
 …とはいうものの、たまに喧嘩(城内では痴話喧嘩と認識されている)し、白鷺城の名物になっていることは、当人たちはあずかりしらないことであった。


  END
 

にゃん  〜知世の日本国語講座のその後〜

本誌沿い


「にゃん」
前が肌蹴たファイが黒鋼に抱きついた。
「お、おい・・・それ、誘ってんの・・・か?」
「んー?」(なんて言ってるの?)
ファイは黒鋼を見上げた。ちょっと小首を傾げる仕草に黒鋼の心臓は痛いほどにドキドキと鳴っていた。
「あ、いや、嫌じゃねぇが、むしろ・・・此処じゃなくて・・・」
「んー?」(なんて言ってるの?)
ファイはもう一度小首を傾げた。
「だぁっ!」
黒鋼は叫ぶとひょいとファイを抱え上げ、白鷺城の中を走り出した。
廊下の手摺りに足をかけ、大きく跳ぶと階下、庭へと降り立つ。
「?」(黒たん突然走り出してどうしちゃったのー?)
黒鋼は城とは別棟の建物の中へと入ると、やっとファイを下ろし、扉に内カギを掛けた。
「くろбы, что деятельность?」
ファイがセレス語混じりで問いかけた。
「日本語がわからない奴は黙ってろ」
「ぶー」
ファイは「黙ってろ」はわかる。初めて言われた時、指を1本口の前で立てて言われたからすぐに覚えた。それに、話せなくとも意味がわかる言葉は結構あるのだ。
黒鋼がファイの手を掴み奥へと引っ張ってゆく。あまり広くないが真っ直ぐ延びる廊下の右側に幾つか部屋があって、黒鋼は今まで通り過ぎた部屋の中で一番立派な部屋に入るとパシンと音を立てて襖を閉めた。
「くろ・・さま・・・что деятельность?」
「ここは待機中の俺の寝所だ」
「たい・・?し・・ん・・жь?」
ファイが言葉を発した瞬間、黒鋼はがばりとファイの上にのしかかった。
「Плохо!」
黒鋼は舌でファイの胸の飾りをぺろぺろと舐め始め、ファイはすぐにはぁはぁと息を吐き始めた。もう一方の飾りを指で摘み、キュッと力を入れるとファイは艶めかしい嬌声を上げた。
「ああぁん・・・」
「いいな・・」
黒鋼はファイの中心を掴むと扱き始めた。
「ああっ、く・・・はぁ・・・・」
黒鋼は既に解けていた帯を放り投げ、自分も着物を脱ぎ捨てた。
「着物をきちんと着れないなら脱いでも同じ事だろ?」
「きもの・・・はぁん・・・」
黒鋼はファイに通じるか自信がなかったが、言葉を発してみた。
「誰に『にゃん』と啼けと言われた?知世か?」
「・・・にゃん・・・ともよ・・・?」
あぁそうか。
「ともよひめが・・・Я говорю Нья, сказал・・・ああんっ・・・」
「日本語で言え」
黒鋼は意地悪にそう言うと、胸を舐めながらファイの腰を抱き、後孔を解し始めた。
「はぁっ・・・ひめ・・・がああっ・・・」
ファイの中で黒鋼の指が蠢いている。
「きも・・の・・・きる・・・にゃんいう」
くろがねはやっぱな、と呟くと
「『にゃん』と啼くと、こうなるんだってわかったか?」
と言ってファイの一番敏感な場所を指で押した。
「ああっっんっっ・・・」
ファイの中心からたらたらと体液が零れる。黒鋼はファイを俯せにするとその体液を取り、後孔にたっぷりと塗りつけた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
「いくぜ?」
黒鋼はファイの中に一気に侵入した。ファイの中を電流が駆けめぐり、黒鋼もまたその様子にただただ昂奮していた。
「くろ・・さ・・・ま・・・も・・・Взимается более・・・」(もっとちょうだい)
「日本語で言え」
「にゃぁん・・・」
ファイは泣きそうな顔で振り向こうとして頭を振りイヤイヤした。黒鋼が最奥を何度も突く。
「ああぁっ・・・Нравиться・・・くろ・・・すき・・・す・・・き・・・」
「それだけか?」
「ちょう・・・だい・・・すき・・・」
ファイのとぎれとぎれに紡がれる言葉が、もっと欲しいとも聞こえて黒鋼はますます力が籠もり、ファイの中を激しく掻き乱した。
「ああぁっ・・・・」
ファイは放出し、黒鋼は一度結合を解くとファイをそっと布団へ横たえた。弛緩した脚を開き、持ち上げるとまた挿入する。
「ああっん・・・」
「どういう時に『にゃん』というのが正しいのか、わかったか?」
「ふうぅん・・・はぁっ・・・は・・・い・・・ああっん」
再びファイの一番悦い所を突いた時、黒鋼もまた放出したのだった。
「どんな時なら『にゃん』と言っていいんだ?」
二人布団に転がったまま、黒鋼は問うた。
「する・・・とき・・・」
真っ赤になって答えたファイの金髪をなでながら、黒鋼は言った。
「服が乱れてる時に絶対ぇ言うなよ」
ファイはこくんと頷いた。
「Одежда является то, что я хочу исправить?」
(服を直して欲しい時はどう言うの?)
「セレス語なんざ知るか。自分で考えろ」
質問されたと分かった黒鋼は意地悪にそっぽをむいた。
「せれす・・・???」
(よくわかんないけど・・・『にゃん』は、黒様だけにしよ)
そして忍軍招集を告げる伝令が待機所の扉をどんどんと叩くまで、二人は着物に手を触れる事はなかった。


END

 

階段下倉庫前日

堀鐔


「ファイー、お昼一緒に食べようっ」
ユウイがお弁当を持って化学準備室のドアを開けた。
「あ、黒鋼先生・・・」
「おう。一緒に食うか?」
何気ない会話だが、ユウイの胸は高鳴った。先日ファイと3人で買い物に行った時からユウイは黒鋼を意識していた。
「ユウイ、いつもね、黒たんと屋上で食べてるんだ。一緒に行こうっ」
ファイはそう言うとユウイのお弁当を取り上げ、黒鋼に渡した。
「何で俺が持たなきゃならないんだっ」
黒鋼が怒鳴る。ファイは心外だとばかりに答えた。
「だって、オレもユウイもお弁当を作ってきたんだよ。黒たんは食べるだけでしょ? 働かざる者食うべからず、だよ」
「ちっ。わかったよ」
「いいのー?」
「いいの!」
黒鋼はこんな時ばかり正しい諺言いやがって、などとぶつぶつ言っていたが、結局二つのお弁当を持って屋上に上がっていった。
     
「黒様—、オレのも食べてよぉ」
ファイが口をとがらせた。ファイのお弁当はいつもどうり黒鋼の好みに合わせた日本食。ユウイのお弁当はサンドイッチだった。黒鋼は目新しいものについ手が伸びてしまったのだった。
「あぁ。両方食べりゃいいんだろ」
「何それ、イヤなら食べなくたっていいもんーだ」
べー、と舌を出す。
「どっちなのかはっきりしろ」
「気に入っていただけたみたいで良かったです」
ユウイはにっこりとして言った。ファイは一人でいいもんいいもんとぶつぶつ言いながら黒鋼専用の箸でおかずをつついている。
「ファイ、そんな顔しないで。もし残っちゃったらおれが食べるから」
「たまにはパンも悪くねぇな」
「ありがとうございます。ヤキモチ焼かないで、ね?」
供をなだめるように、ファイに呼びかけた。
「やだ。黒様が食べてくれるまでオレも食べないもん」
「うっせー奴だな。食うって言ってんだろ」
やってられないとばかりに黒鋼はそう言うと、ファイの箸を持った手ごと掴み、自分の口に箸を運んだ。そして反対の手でファイの頭を掴むと、ファイに口移しで食べさせた。
ファイは大きく眼を見開きながらごくんと飲み込んだ。瞳を伏せ、顔を真っ赤にしている。
「く、黒様・・・ユウイが・・・」
ユウイはその様子を呆然と見ていた。チクリ、と胸が痛む。やっぱり黒鋼先生はファイのものなのだ、と改めて見せつけられた気分だ。
と、黒鋼がユウイを見た。目が合い、ドキリとする。射貫くような赤い瞳でじっと見つめられ、鼓動が早まった。
ほんの1秒かそこらだというのに、その瞳に意味があるかのような視線に、ユウイはドキドキした。
まるで誘ってるかのような、魅力的な瞳ー。
心の中を見透かされているような気がして、ユウイは思わず眼を逸らした。
     
     
じっと奴を見つめると、顔を赤くして眼を逸らす。この同じ顔は同じように嬌うのだろうか。実直そうな話し方からして、正攻法では拒否られるだろう。出来るだけ自分のペースで持って行きたかった。

決行は明日、金曜日の放課後だ。


階段下倉庫

堀鐔


「おい、ちょっと来い」
黒鋼はユウイを呼び止めると腕を掴んで歩き始めた。
「待って、」
ユウイは早い歩調にやっとの事でついて行きながら黒鋼に呼び掛けるが、黒鋼はズンズンと歩いて行く。なんとか転ばない様にするのが精一杯のスピードだ。
 黒鋼は第二校舎に入ると倉庫の鍵を開け、中にユウイを押し込み自分も入った。電気をつけ内鍵を閉める。
ガチャリ。
階段下のスペースを利用した、窓のない物置に鍵の音が響き、ユウイは驚いて黒鋼を見上げた。
黒鋼の含みのある表情にイヤな感じがして、ユウイは慌てて逃げ出そうとノブに手を伸ばそうとした。
が、それよりも黒鋼が後から抱きすくめる方が圧倒的に早かった。
「やっやめっ・・」
黒鋼が首筋を唇でなぞり、舌がつぅっと肩へと動いた。
「どうした?いつもと違うじゃねぇか。」
黒鋼の台詞に、ファイと勘違いしているとわかり少しだけ安心したユウイは言った。
「黒鋼先生、おれはユウイです。放して下さい」
「知ってる」
「なっ、放して!」
思いっきり抵抗しても力の差は歴然だ。黒鋼の息が耳元にかかり、ユウイはクラクラしそうだった。
ずっと、ユウイは黒鋼のことが好きだった。しかし黒鋼はファイのものなのだ。
黒鋼はユウイの白衣とワイシャツのボタンを外し、胸の飾りを探り当てると指先で弄んだ。
「あっっ、イヤッ」
ユウイは身体を捩ろうとしたが黒鋼がしっかりと押さえていて全く身動きが取れない。黒鋼は片手を伸ばすとユウイのズボンの前を開け、そっと握った。ズボンからベルトが落ち、バックルがゴトリと音を立てた。
「俺の事好きなんだろ?いつもいやらしい瞳で誘ってるよな?」
黒鋼はそう言いながら白衣を脱がし、握った手を動かし始めた。
「誘って・・なんか、ない・・・」
ユウイの切れ切れに紡がれた言葉は完全に無視された。ユウイは気持ちいいのと悲しいのでおかしくなりそうだった。
(黒鋼先生がこんな人だったなんて。こんな事がファイに知られたら・・・。)
快楽に、段々と意識が朦朧としてきた。一人では立っていられなくなりそうだ。黒鋼は不意にユウイの腰を引いた。
「あっ」
両手を床に突き、黒鋼にお尻を突き出す様な格好になってしまったユウイに、黒鋼は遠慮なく自身を突き刺した。
「あぁっ!痛っあー!」
身体が裂けそうな痛みに耐えられず、ユウイは思わず叫んでいた。
「大声を出すな。人が来ても知らねぇぞ」
黒鋼の警告も、痛みで聞こえない。
「力抜け。すぐ気持ち良くなる。」
黒鋼はそう言うと、ユウイの胸の飾りを再び刺激した。
「あっ、や、やめて・・・」
刺激と共に繋がった部分の力が抜けてゆく。黒鋼はゆっくりと動き出し、ユウイの反応を舐めるように見ていた。
「あっん、はぁ、はぁ、やめ、て、先生・・・」
そのまま身体を起こす。黒鋼をずっぷりと根本まで咥え込んだユウイは、はぁはぁと喘いでいる。黒鋼は、動きを早めた。
「あぁん、あぁ、せんせ・・・、ダメ、お願い、ダメ・・・」
「気持ちいいならそう言えよ」
黒鋼はそう言うと更に激しく突き上げた。
「あぁぁ、いっ、あっ、ふぅぅん・・・」
「気持ちいいんだろ?素直に言えばもっと良くしてやるぞ」
「はぁ、はぁ、せん、せ・・・も、ダメ・・勘弁してぇ・・・」
「気持ちよくねぇのか? もうやめるか?」
「せんせ、おね・・・が・・・あぁっぁんっ!」
最後は黒鋼の一突きと同時にユウイは放出し、気絶した。
黒鋼は、倉庫の中に積んである、段ボール箱の一つから新しい雑巾を取り出し、タオル代わりに身体を清めた。
「ん・・・」
ユウイが気がついた。隣に座っている黒鋼に気付き、ガバッと起き上がった。いや、起き上がろうとして座り込んだ。
「まだ動けねぇだろ?じっとしてろ。」
先刻とは打って変わって優しいことを言っている。ユウイは思い切り警戒しながらそうっと服を身につけた。
「おまえ、かなりインランだな」
不意に黒鋼が言った。
「な、あ、あなたにそんなこと言われる筋合い無いです、人を襲っておいて!」
「あなた、か。妻にしてやろうか?」
ユウイはかぁっと赤くなった。
「なんでそうなるんですか! こんな人だとは思わなかった!」
「じゃ、どんな奴だと思ってたんだ? おまえだって悦んでたんだからいいだろ? 最後は『お願い、もっと〜』なんて言ってたじゃねぇか」
「もっと、なんて言ってない!」
黒鋼はさりげなくユウイの肩を抱くと言った。
「そう怒るなよ。次は優しくしてやるよ」
「次なんて、ありませんから!」
ユウイが噛みつく。黒鋼は肩に置いた手に少しだけ力を入れると、ユウイを優しく抱き寄せ、キスをした。
「んんっ、やっ」
ユウイの抵抗も、キスが深まるにつれ、小さくなり。いつの間にか両手を黒鋼の首に回し、キスをねだっていた。
      
      
   END




愛してる

本誌沿い



ずっと共に居られると疑わなかった。
愛していると伝えなくとも、自分の想いは伝わっていると思い込んでいた。
だから俺は−−−−

ファイが立つ足下に魔方陣が現れた。黒鋼の他、知世姫、蘇摩がファイを見送りに来ていた。
「じゃあね、黒様。知世姫の言う事をちゃんと聞くんだよー」
フォンフォンフォン・・・
魔法陣から発せられた光がファイを包む。
「ふん」
黒鋼は魔方陣の中に足を踏み入れた。
「! ダメっ、黒様!・・・巻き込まれちゃうよ!」
「ふん」
ファイの制止を無視して黒鋼はゆっくりとファイに近付いてゆく。
そして黒鋼がファイの腕を掴んだ時、魔方陣は二人と共に消えていた。
「姫様・・・」
蘇摩が助けを求めるように知世を見た。知世は微笑んだ。
「蘇摩、二人は大丈夫ですわ。心配ありません」
「姫様・・・」
蘇摩はまだ心配そうに魔方陣があった場所を見詰めていた。そんな蘇摩に知世姫は言った。
「あの魔方陣に入れたと言う事は、ファイさんの魔法が黒鋼を受け入れたと言う事。大丈夫です。どのような世界であろうとも、二人は一緒ですから、大丈夫ですわ」
それを聞いて蘇摩はやっと安心したようだった。
「それならば安心致しました。やはりあの二人は一緒に居なければならないと思いますから」
知世は微笑んだ。


「どうして危ないことするの!一歩間違えば死んでたかもしれないんだよ!死んだら、もう、二度と会えないのに!」
「うっせぇ奴だな」
黒鋼は耳を掻きながら面倒臭そうに言った。
「無事だったんだからいいだろうが」
そんな事はどうでもいいとばかりの黒鋼に、ファイは再び大きな声を出した。
「黒様!まさか死ぬ気だったの?!死んだらオレ・・・」
「ばーか、死んでたまるか」
「だったら!」
ファイが三度大きな声をあげたのを黒鋼は制し、言った。
「お前こそ、会わないつもりだったくせに何を言ってるんだ」
「!」
ファイは俯いた。黒鋼が自分の気持ちを見透かしているようで急に気恥ずかしくなった。
「ったく、どれだけ一緒の時間を共にしたと思ってるんだ、そのくらい分かるに決まってるだろう」
「だって・・・黒りんには・・・知世姫がいるし・・・オレは・・・なんていうか、旅の間のお相手でしかなかったのかなとか・・・」
ファイの声は自信なさげで消え入りそうだった。
「ばーか」
「もう!バカって言ったの二度目だよ!」
「ふん。バカにバカと言って何が悪い」
黒鋼は息を吐くと続けた。
「とにかく、お前は知世の事を気にし過ぎだ」
「だって・・・」
ファイは口を尖らせた。
「いいか、俺はわざわざ危険を冒してお前の魔方陣に入って来たんだ。その意味が分かるだろう?」
「え・・・じゃ・・・あ、わかんなーい!」
ファイは満面の笑みでそう言うとわざとらしく首を捻った。
「てめぇ!分かってるくせにとぼけるんじゃねぇ!」
「とぼけてないよー。オレ、バカだからわかんなーい」
「何言ってやがる!こういう時ばっかり馬鹿を認めやがって!」
ファイは一瞬逃げようとしたが、ぴたりと停止すると黒鋼に抱き付いた。
「黒様、お・し・え・て」
「うっ・・・」
ファイの甘い囁きに黒鋼はくらくらして来た。
「ね、くろりん」
ファイに畳み掛けられた黒鋼は、腹を据えるとファイをギュッと抱き締め囁いた。
「ファイ、愛してる。ずっと共に居てくれ」
かぁぁっ
ファイは黒鋼の腕の中で真っ赤になっていた。こんな風にストレートに言われたらなんと答えたら良いか分からなくなってしまう・・・
暫くの間沈黙が二人を包んだ。がついに黒鋼が口を開いた。
「返事は?」
「・・・」
「おい」
黒鋼が痺れを切らして尋ねた。ファイは真っ赤な顔で、やっと聞こえるほどの小さな声で囁いた。
「・・・オレも、愛してる・・・」
「で?」
うっ、とファイは詰まった。黒鋼はニヤニヤしながらファイの言葉を待っている。
「ずっと、一緒にいたい・・です・・・」
ゴツンッ
「なら、始めから一人で行こうとすんな」
「ご・・・ごめんっていうか、痛いよ黒様!」
「ふん。素直じゃねぇのが悪い」
「黒様だけには言われたくないんだけどー!」
黒鋼は明後日の方角を見ながら言った。
「さて、今度はどんな国だろうな?」
一瞬の間が空いた後、二人は顔を見合わせて笑いあった。



 END

ローライズジーンズ

本誌沿い


既にup済の「涙」の続きになります。
R18です。苦手な方、高校生以下の方はご遠慮ください。m(_ _)m
18才以上の方は追記からどうぞ。

追記の意味なかった−!!!(@_@;)
小説用のテンプレートのせいでしょうか・・・・。
改行をいっぱい入れますm(_ _)m









  

カテゴリを修正しました

お知らせ


今まで気付いてなかったのですが、黒ファイ地球防衛軍のカテゴリを作ったら、右側のメニューから「教育実習生」などのパラレルが読めなくなってました。すみませんでしたm(_ _)m
ALLなど、他の所からリンクはあったのですが、不便だったというか、不具合となっていましたので只今修正しました。
地球防衛軍以外のパラレルについては、「パラレル 」のすぐ下の「パラレル」メニューから目次を表示させて選択して下さい。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。(スペースをカテゴリ名に使って区別しています)

ほかにも何か不具合がありましたら、Webclap、ブログ拍手、メールフォームによりご連絡下さい。
宜しくお願いします。


171話より 「包帯」前夜

本誌沿い


 「包帯」前夜

 ふわり、と異世界に到着したか否か。ファイは大声で呼びかけた。
「黒様、黒様、目を開けて!」
しかし、何度呼びかけても、黒鋼は目を開かない。それどころか、ぴくりとも動かない。小狼も、モコナも、心配そうに黒鋼を見つめている。
「黒様、お願い!目を開けてっ・・・」
ファイが何度も呼びかけるも、虚しく木霊するばかりだ。
「動かさない方がいい。それよりも何とかして出血を止めないと・・・」
小狼がそう言った時、遠くからやってくる蹄の音が聞こえた。
 そして、天照と蘇摩達忍びの者、そして知世姫がいるであろう車が見えた。蘇摩は到着すると、医療忍者の指揮を執り、黒鋼を担架に乗せるよう指示した。失血が激しいせいだろうか、医療忍者達の様子から、腕を切り落とした黒鋼の容態は命の危機に晒されていることがわかる。
 黒鋼にすがりつく、ファイ。
「黒様死なないで・・・もう、誰もオレを置いていかないで・・・」
いつの間にか、頬を涙が伝う。運ばれてゆく黒鋼にファイは泣きながら追いすがった。
しかし、治療の邪魔をするわけにもいかない。思わず膝をついた時、そっと頬に手が伸ばされた。
「大丈夫です」
いつのまにか知世姫がファイに歩み寄っていた。
「黒鋼は死にません」
ファイは驚いて知世姫を見上げた。流れる涙を拭うこともせず、ただただ、知世姫を見つめていた。


 白鷺城に着くと、黒鋼は病室とは違う治療専門の部屋に寝かされ、医療忍者がつきっきりで治療に当たった。ファイも、小狼(モコナ付き)も、毎日治療室を訪問したが、ずっと面会謝絶だった。
 ファイはずっと黒鋼の治療室の前に座り込み、寝ようともせず膝を抱えていた。それを見かねた蘇摩がそのすぐ近くの部屋にファイの寝室を移し、少しは寝るようになったものの、ファイは起きているほとんどの時間を黒鋼の治療室の前で過ごしていた。

 初めて会った時から、色々なことに嘘をついていた自分を救ってくれた黒鋼。それを責めるでもなく、言葉通り身を挺して救ってくれた。セレスに自分だけが残されてもいいと思っていたのに。生きることを諦め、自分の幸せから逃げようとしていたオレを、「俺に殺されるまで生きていろ」と、彼なりの優しさで救ってくれた。
 こんなに大切にしてくれる人を、優しい人を、失うわけにはいかない。失いたくない。せめてこの気持ちを伝えるまでは。
 知世姫は、言った。
「謝られても、黒鋼の腕は戻りません」
ファイは謝ることより大事なことがあることに気づいた。
 東京で感じていた怒りは、感謝の気持ちに変わっていた。黒鋼に言えるだろうか。この、想いを。
「ありがとう、黒様・・・オレ、初めて、生きていたいと思えたよ」
思わず呟いた時、治療室のドアが開けられた。
「もう大丈夫です。寝室に移動します」
医療忍者の声に、思わずファイは体中の力が抜け、その場にへたり込んだ。
 黒鋼がやはり担架に乗せられて運ばれてゆく。しかし、その顔には返り血は付いていなかったし、フランケンシュタインのような傷跡もなかった。
「少し、きちんと寝ないと身体に毒ですよ」
蘇摩が声をかけた。朝日が差し込み始めていた。
「うん、ありがと。黒様の顔を見たら安心して眠くなってきたよー」
ファイは微笑むと、自室へと向かった。

「オレのせいで、ごめんね」
を封印しよう。そして目覚めた黒鋼に言おう。
「お返しだよ、黒様」
握りしめた拳に、愛を乗せて。



END



20 ハッピーエンドなエピローグ

黒ファイ地球防衛軍


20 ハッピーエンドなエピローグ

時はあっという間に走り去り、3月の卒業式を迎えた。黒鋼は高等部を卒業する。4月からは大学部に進学し、堀鍔学園の体育教師を目指すつもりだった。しかも侑子の特別の計らいで、本来なら連続で皆勤でないと受けることが出来ない奨学金を特別に皆勤の年数分貰えることになった。
式が終わり、黒鋼はファイと二人で早咲きの桜を見上げていた。
「色々あったけど、卒業か・・・」
黒鋼が感慨深げに呟いた。
「本当にね。星史郎先生に捕まった時はもう会えないかと思った・・・」
「そうだな」
なんとなく二人は黙ったまま見つめ合い、どちらからともなくそっと口づけた。
「4月から、あんまり会えなくなるな。寂しくて泣いたりするなよ」
黒鋼が真剣な表情でそう言うと、ファイはにっこりと微笑んで言った。
「オレ、寂しくないよ」
「えっ、そ、そうか?」
黒鋼はかなり動揺している。ファイはおかしくて、種明かしをした。
「オレね、2学期と3学期のテストで一番だったんだ」
「あぁ、知ってる」
黒鋼は何の話かと訝しがりながら答えた。
「そしたら侑子先生がね、例の事件で頑張ったし、テストと併せてご褒美に、スキップさせてくれるんだって!」
「? どういう事だ?」
黒鋼はすぐには理解出来なかった。ファイは本当に嬉しそうに言った。
「オレもね、今日卒業するの! 特別卒業生だって!」
黒鋼は眼を見開いた。
「じゃぁお前も・・・」
「うん! 4月から大学生。また同級生だよ」
黒鋼が思わずファイを抱き締めた時、チャイムが鳴り放送が入った。二人とも一瞬身体を硬くし、そして二人同時にクスリと笑った。もうチャイムにビクビクする必要はないのだ。
「連絡します。特別卒業生と関係者の方は、小体育館にお集まり下さい。繰り返します・・・」
二人は手を繋ぎ、歩き始めた。永久に続く未来に向かって。


END





最後までお読み頂きありがとうございました。




19 突入

黒ファイ地球防衛軍


19 突入

「では侑子、始めて下さい」
侑子は小さく頷くと、隠し扉のスイッチを押した。
グイーンという音と共に隠し扉が開く。他に誰も知らないはずの扉が不意に開き、驚いた3人は振り返った。
「はぁい、飛王先生。お久し振りねぇ?」
そこにマシンガンを構えた侑子が現れ、飛王とその仲間達は皆一様に驚きそして一斉にどよめく。
「なぜその扉を知ってるのだ!?」
侑子はそれには答えず不敵に微笑むとファイに言った。
「ファイ、もう枷は外れるわよ」
ファイは驚きつつも手足の枷を千切り侑子の後ろに逃げ込んだ。侑子は麻酔銃を渡し簡単に使い方を説明すると、銃口を飛王に向けさせ、自分は改めてマシンガンを構えて他の二人を威嚇した。
星史郎が、信じられないという表情で鬼児を壁から呼び出した。すぐにファイと侑子のの腕を捕らえたが難なく切られてしまう。星史郎は呆然としながらも次々と鬼児を呼び出すのに必死だった。
「だから生徒達をここで監視させた方が良いと言ったんですよ!」
カイルが星史郎に怒鳴った。星史郎が怒鳴り返す。
「鬼児は人の力では絶対に切れません!ありえない・・・ありえない、こんなこと!なぜ鬼児が人の力で切れるんです?!」
鬼児に絶対の信用を置いていたのだろう、星史郎は明らかに狼狽えながらカイルと言い争っている。ファイは星史郎先生は焦る事なんて絶対にないと思っていたから、その様子を驚いて見つめていた。
侑子が3人に言った。
「今機動警察がこっちに向かっているわ。法的・社会的な制裁を受けたくなかったら、直ちに催眠を解きなさい」
「むぅっ」
飛王は変な声を上げ、逃げ出そうと侑子が立っているのとは反対のドアに走り寄った。それを見て言い争っていた星史郎とカイルは慌てて後を追いかける。しかし飛王がドアを開け部屋を出るなり誰かにぶつかり跳ね返ったように派手に転んだ。
「飛王先生、柔道なら俺が付き合いますよ」
草薙だ。
「ちょうど良かった。お前、あの二人を捕らえよ!」
飛王は草薙の催眠が解けているとは思わなかったのだろう、そう命令すると自分は一目散に逃げ出そうとした。しかし草薙は動こうとはせず、後ろを振り返ると、誰かを呼んだ。
「おい俺はあっちを受け持つぞ!飛王は任せた!」
「おう!」
短く返事をして部屋に入って来た人物を見て、ファイは思わず叫んだ。
「黒鋼!」
黒鋼はファイに微笑むと、あっという間に真剣を飛王の喉元に突き付けた。
「ひぃっ!」
飛王が情けない嬌声を上げる。その間に剣道部と柔道部の生徒達がわらわらと現れ、星史郎やカイル先生達を捕らえ、腕を縛り上げ床に転がした。侑子が自ら飛王を縛り上げる。
黒鋼は真剣を鞘に収め、ファイに微笑みかけた。
「黒鋼・・・」
ファイは涙を浮かべながら黒鋼の胸に飛び込んだ。
「遅くなって悪かったな」
黒鋼もファイを力強く抱き締めた。
「ううん、来てくれてありがとう」
「やぁね、ラブシーンは二人きりの時にして欲しいわぁ」
侑子の台詞に二人はハッとして慌てて離れる。
「プッ!あはは・・・」
草薙が笑い出したのをきっかけに、皆笑い出した。そして二人も笑い出した。


しかし縛り上げられた飛王はなかなか力の秘密を話そうとはしなかった。黒鋼は痺れを切らし、乱暴に飛王の襟元を掴んで怒鳴ったが、それも効果は無かった。
ファイはふと飛王の指に輝く指輪が目に入った。まるで黒曜石のように輝く石が見事にしつらえてある。
「きれい・・・」
ファイの言葉に侑子が指輪に気付いた。
「あぁら、飛王先生ってばステキな指輪を持ってるじゃなーい?」
ギクリとした飛王に侑子は確信をこめて言った。
「この指輪が、力の元なのね?」
「そ、そんな訳ないだろう!私が男だからといって、指輪をつけてはいけないということにはならない筈だ!」
飛王の言葉は反って侑子の確信を強める事となった。
「そう。ならこれ、私が貰ってあげるわ」
「駄目だ!」
飛王は思わず叫んでいた。侑子はニヤリとほくそ笑んだ。
「あぁら、どうして?そんなに指輪が欲しいなら、退職祝いに新しい物をプレゼントしてあげるわよ?」
「こ、これは親の形見だ!」
苦し紛れに飛王は叫んだが反って墓穴を掘ることになった。
「あら、星史郎先生もカイル先生も同じ指輪をしてるようだけと?」
ぐうの音も出ない。と、不意に指輪が鳴り出した。
キーン・・・
「ああぁっ!」
飛王が頭を抱えようとしたが縛られているから激しく頭を振るしか出来ずに、激しくのたうち回った。
「・・!」
それは指輪を持っている他の二人も同じだった。一斉に体を折り曲げ苦しむその様子を皆固唾を飲んで見守っていた。
やがて三人は不意に意識を失った。
「何なんだ、今の音は・・・」
黒鋼が呟くと、侑子は三人から指輪を取り上げ、言った。
「この指輪だけでチャイムを使って催眠をかけるなんて出来る訳ないわ。多分もっと大きな石が隠されている筈よ。手分けして探しましょう」
一同は学園中を探し始めた。
その間、千歳は石の組成を調べていた。
普通は鉱物や生物などの結晶体が宝石と呼ばれるものとなる。しかしこの不思議な石は、一般的な宝石のどのタイプの結晶体でもなかった。
「こんな物質、見たことがありません」
千歳はそう言って、新たな研究材料に胸を膨らませていた。


そしてチャイムに催眠をかけていた宝石は、放送室にあった。
男性が一抱えするほど大きいその石は、指輪の時には分かりにくかったが、黒光りし、時折虹色に輝く不思議な色をしていた。
侑子はその石を皆から見えるように中央に置くと、気持ち良さそうにマシンガンをぶっ放した。
ガガガガガガ
大きな宝石は、あっという間に粉々になった。


飛王は副理事長の地位を剥奪され、星史郎、カイル両先生と共に懲戒免職処分となった。
「また変な事を起こさなければいいが」
心配そうに黒鋼が言うと侑子は言った。
「大丈夫よ、心神耗弱って事で、法的な手続きを一人でする事が出来ない成年被後見人にしといたから。簡単に言うと、未成年者と同じで保護者代わりの『後見人』がいるのよ」
「へぇ、じゃぁ後見人になる人はしっかりと飛王先生を見ていないといけませんね」
ファイが言うと侑子は笑った。
「飛王達の後見人はあたしよ」



18 二人の想い

黒ファイ地球防衛軍


18 二人の想い

黒鋼は複雑な気持ちで剣道部と柔道部の皆の報告を聞いていた。
当たり前のようにデートをしてキスまでした自分を、ファイはどのように思っているのだろう。今から思えば見舞いに行った日にファイがあれだけ狼狽えていたのも頷ける。
しかもファイをこの事件に巻き込んでしまったのは俺なのに、ファイが捕らえられてしまったのだ。もしもファイに何かあったらと思うと、激しく胸が痛んだ。

黒鋼のそんな様子を、知世もまた複雑な表情で見つめていた。
物心ついた時から一緒にいた黒鋼のことを、知世はずっと好きだった。
兄妹として育った二人だったから、ひょんなことから従兄妹であることを知った時、知世は、ずっと抱いていた罪悪感から解放された気がした。
それなのに、ほんの数ヶ月前まで誰のものでもなかった黒鋼は、突然現れた金髪の美人に、そう、正に「心奪われて」しまったのだ。


 柔道場で正気を取り返した柔道部員と剣道部員は、状況の説明を受け、すぐにでも飛王のいるだろう理事長室へと殴り込みそうな勢いで怒っていた。それを何とか主将二人で押しとどめ、侑子が計画を説明する。
「まずあたしが気付かれないように部屋へ忍び込んで飛王の不意を突くわ。それで捕らえられれば一番いいけど、逃げ出さないように廊下へ出る扉のところでで待ち伏せする役が必要よ」
ここで天照が説明を代わり、千歳が用意していたスクリーンに図面を映し出した。
「侑子はこの隠し扉から中に入り、ファイの足枷を外し、飛王達を攪乱します。そして飛王達が逃げ込むだろう通路へと繋がる扉は二つありますから、こちらを柔道部員に、こちらを剣道部員に抑えて貰います。あぁ、黒鋼は後から登場した方が王子様のようで宜しいんではなくて?」
「なっ、なんだよ、それ!?俺も剣道部員と一緒で良いだろう?」
黒鋼は真っ赤になって抗議した。
それを見ていた知世は、誰にも気付かれないように小さな溜息を吐くと、覚悟を決めて口を開いた。
「黒鋼、飛王はどちらの扉に近い場所にいるか判りませんわ。どちらか逃げだそうとしても良いように、部員達とは別行動にした方がよいのでは?自分で捕まえたいのでしょう?」
ファイのために、という言葉は喉の奥に呑み込んだ。
「ま、まぁな・・・わかったよ」
「きゃぁ、姫を助け出す王子様の活躍が楽しみねぇ!」
侑子が黒鋼をからかう。
「うっせぇんだよ!」
黒鋼の顔は真っ赤で、一同はドッと笑った。ただし、知世を除いてだったが。


翌日ようやく準備が整い、一同は再び柔道場に集まっていた。
「いよいよ飛王達をやっつけるわよー!」
「おおっ!」
侑子の声にあちこちから鬨の声が上がる。
「しかし今更だが向こうが銃とか持ってたらどうするんだ?」
草薙が黒鋼に尋ねた。
「いや、大丈夫だろ? ファイが捕まってる部屋は訓練場じゃないし、飛王が持ってたとしてもマグナムとかだろ、多分」
「やっぱ危ねーじゃねぇか」
草薙が眉根を寄せる。
「連発できないんだから何とかなるって」
二人で無責任な会話をしていると、知世がやってきた。
「黒鋼、私は足手まといになりますから今回は参加致しません。くれぐれもドジを踏まないようにお気をつけ下さいね」
「余計なお世話だ!」
「ほほほほ・・・」
知世は笑いながら柔道場から出て行った。
「あれ?あいつ参加しないなら何で今日ここに来たんだ?」
ふと湧いた疑問を呟くと、草薙が気の毒そうに知世を見送り、そして黒鋼を見た。
「一応最後まで見届けたかったんだろ、ほら、行くぞ!」
「あ、あぁ」
いよいよ決戦が始まるのだ。


侑子はマシンガンと麻酔銃を持ち、飛王達しか知らないはずの隠し扉の入口に立った。
天照は得意の薙刀を持ち、黒鋼は竹刀を真剣に持ち替えて待機している。
千歳は全員につけた無線に例の地下室から指示を出し、万一の不測の事態に備える。そして傍には知世がいた。
部員達は指示された場所に待機が完了し、飛王は袋のネズミも同然だ。
千歳は全ての部屋と無線にに異常がないこと、飛王達3人がファイが拘束されている部屋にいることを確認すると、マイクに向かって作戦開始を告げた。
「では侑子、始めて下さい」
侑子は小さく頷くと、隠し扉のスイッチを押した。




17 侑子登場

黒ファイ地球防衛軍


17 侑子登場

・・・ファイ・・・ファイ・・・その紅茶は絶対に飲んではダメよ・・・
ファイは瞳を開けた。また幻聴だろうか。最近時々侑子先生の声が聞こえるような気がする。でもいつ瞳を開けてもそこに侑子先生はいない。
・・・オレ、いよいよおかしくなっちゃったのかな・・・
捕まってから全てを警戒して何も食べていないから、やはり幻聴なのかも知れない。もう、声を出して独り言を言う元気もなかった。
そして最初に星史郎先生の手で紅茶を飲まされた他は、不思議な幻聴が言うとおり紅茶には手をつけていない。それなのに星史郎先生はおかしな事を言っていた。
「紅茶を飲んでくれたのですね」
と。
ファイは訳が分からなかったが、星史郎に都合のよいように思ってくれている様だったから、特に否定もしなかった。それに、否定する気力も無かったし。
またある時は侑子のまた違う言葉が聞こえて来た事もあった。
「もう少しよ。貴女を助ける準備を黒鋼と一緒に進めているわ。それにあと少しで足枷が切れるから、もう少しだけ、我慢してね」
黒鋼が・・・?
足枷が切れる・・・?
本当だろうか?
黒鋼の性格なら、きっと囚われの彼女を助け出さんとするだろう。でも、オレと黒鋼が付き合っていたのはまやかしだ。催眠がかかっている間だけのことなのだ。催眠が解けた時、きっと黒鋼はなぜオレと付き合う事になったのか、不思議に思うことだろう。オレ達は飛王理事長達の企みを暴く仲間なだけのことなのだから。
そう、ファイは思っていた。


かくして侑子は理事長室の真上辺りに造られた隠し部屋にいた。そして開口一番
「ずっと独りぼっちで宴会をしていたから、つまらなかったわ」
と宣わったのだった。どうやら予め快適に過ごせるように準備をしていたらしく、床には真っ赤な絨毯が敷かれ、ソファ、冷蔵庫などが装備されていた(当然冷蔵庫の中身は酒類とおつまみのみである)。
「黒鋼はなかなか助けに来てくれないしー」
「なんで俺なんだよ!だいたい、なんで俺に手紙を送ったんだ?」
侑子はニヤリと笑うと言った。
「だって、7時間目のことを調べてたんでしょ? でもアレじゃぁばれるわよ。それにファイが拉致られたのも見てたしね」
「見てたのなら助けろよ!どいつもこいつも・・・」
黒鋼が悪態をつくと侑子は言った。
「あら、やっぱり目的や催眠の手段は知っておかなきゃいけないじゃない? それにそんな事言っていいのかなぁ? この部屋はファイの居る部屋にも通じているのよ。実は時々ファイの所にお邪魔してたのよね。すぐに助けられるように準備していたんだけどなぁ」
意味あり気に言葉を切った侑子は黒鋼に目をやり、黒鋼の反応を確かめる様に口角を上げた。
「!!」
黒鋼は真っ赤な顔をして侑子を睨んでいる。
「やはりここから繋がっているのですね」
天照の言葉に侑子は頷いた。
「ファイのところに星史郎がいない時間を狙って行ったの。黒鋼はなかなか来ないしさ、ヒマだったからファイにつけられた足枷の構造を分析してファイの力でも強く引っ張るだけで切れるように少しずつ細工したってワケ」
「でかした!」
思わず黒鋼は声を上げ、天照と草薙がくすくす笑い出し、黒鋼は更に真っ赤になった。
「ファイはお元気そうでしたか?」
にっこりと知世は微笑んで、侑子に尋ねた。
「えぇ、大丈夫よ。ただ、ちょっと疲れているみたいだけど」
「その足枷は普通のものとは違うと言うことですか?ファイは壁際に固定されていないようですが?」
千歳の質問に、侑子は調べたことを話して聞かせた。その内容は、もしも星史郎が聞いたらその正確さに舌を巻いたことだろう。
「なるほど、それで壁などに拘束する必要がないのですね」
千歳の言葉に、侑子は頷くと言った。
「星史郎はその枷を鬼児(おに)と呼んでいるようね。でも壁の中に仕込んだ鬼児にまで細工されるとは星史郎も思ってないはずよ。それから、ファイが飲まされた洗脳薬入りの紅茶は少し頂いてあるわ。その成分を元に、あの香りを造ったのよ。言ってみればワクチンみたいなものね」
千歳が紅茶を受け取り、早速簡易試験紙を用いて成分検査を始めた。
「とりあえずこっそりと催眠状態を解く必要があるな。後遺症がある奴も居るかもしれないし、問題は場所と同時にどれくらいの人数に対して香りを嗅がせるか、だ」
黒鋼が言うと、草薙も頷いた。
「特に混乱が起きてもいい場所を選ばないと・・」
「場所は柔道場辺りはどうでしょうか」
知世が言った。
「そうですわね、剣道部の方と柔道部の方にご協力をお願いしましょう。千歳、後遺症等についてはどのようにお考えですか?」
天照の問いにちょうど試験を終えた千歳が答えた。
「特に問題ないでしょう。侑子のお陰で成分が分かりましたから」
そして草薙と同じように、剣道部・柔道部のメンバーが無事に正気を取り戻したのだった。そして部員達は口々に
「そう言えば最近怪我が多かった」とか、
「気がつくと補習が終わっていた」とか、
明らかに催眠の影響と思われる記憶障害を含めた影響を侑子や天照に報告し始めたのだった。



16 力の秘密

黒ファイ地球防衛軍


16 力の秘密

黒鋼達が画面上で赤い点として見ていた、ファイの元に訪れた人物は星史郎だった。
「また何も食べていないのですか? 体調を崩しますよ」
ファイの隣にやってきた星史郎は、優しくそう言うと、ファイの顎を掴んだ。しかし言葉と裏腹に瞳は笑っていない。
「命令を聞けないとは催眠の効きが悪いようですね。強力な薬は身体をぼろぼろにしますから、あまり使いたくないのです。素直に食事を摂りなさい」
星史郎は、ファイに自分が考えていたように催眠がかからないのを訝しく思っていた。誰かに邪魔をされるとは考えにくい。自分の考えではとっくにファイの記憶を失わせるくらいの催眠を掛けているはずなのだ。
勿論それは侑子が細工したからに他ならないのだが、星史郎がそれを知る由もない。
「次に僕が来るまでに食事を全て食べておきなさい」
星史郎はそう言うと、部屋を出て行った。


「なぜまだあの生徒は正気を保っているのだ?それに前理事長はまだ見つからないのか」
飛王の苛立ちは頂点に達していた。
「はっ、申し訳ありません」
カイル先生が恐縮しながら答えた。
自分が理事長に就任して4ヶ月が経とうとしている。生徒や保護者に対しては理事長が代わったと言っているが、実は書類上の理事長はまだ侑子だった。
学校法人として理事長変更の届出書を提出するには、学園の印章だけでなく侑子個人の印も代表者印として必要だった。しかもこの場合は侑子本人が届け出なければ、代表者印の押された委任状でも無い限りは受け付けて貰えないことが提出する段になって初めて分かったのだった。
 しかしその時侑子は既に雲隠れしており、必要な印章の在処は分からない。なんとか金庫を開け、学園の印章を見つけたものの、代表者印である侑子の印はそこにはなかった。そして侑子の自宅も空き巣を装い捜索したが、結局見つけることは出来なかったのである。
 そういう訳で飛王はしつこく侑子を捜していたのだった。もし運悪く殺してしまっても、その場合は死亡確認書があれば副理事長である自分の印が代理で使用できる。むしろ侑子が死んでくれた方が、飛王にとっては手っ取り早かった。しかし死亡確認書の捏造は出来なかった。これは警察本部が作成する物だからだ。いくら堀鍔学園一帯が一選挙区になったとはいえ、その中に交番こそあれ、独立した警察署はなかったのである。もっと強力な催眠を掛けられるようにならなければ、交番勤務の警察官を操り警察本部内で作業させることは不可能だった。
飛王は力の籠もった指輪をそっと撫で、呟いた。
「この力をパワーアップさせなければ、目的は果たせない」
飛王は星史郎を呼び出した。
「夏休みにもう一度催眠を掛けておけ。生徒、職員とも全員だ」
「わかりました。ゼミを開いて全員が出席するよう、通知を出しましょう」
「うむ。効果によっては夏休み中に数回行え」
「はい」
軍事国家建設、という知世達の考えは概ね間違っていなかった。飛王は7時間目の演習中に生徒同士が撃ち合う様子をまるで自宅で映画を見るように鑑賞していた。そして銃の扱いが上手い生徒や、サバイバルゲームを得意とする生徒を見つけ出し、計画が上手くいった時の幹部候補生としてチェックしていたのだった。
 軍事力を持つことは、すなわち権力を得ることと同意だ。飛王はまずは学園を、次にこの学園都市を、やがては国の重鎮を操ることによって陰からこの国を支配しようと考えていたのである。
 そして催眠を掛ける不思議な力の秘密は飛王達が持つ不思議な石が施された指輪にあった。なんとその石は人を操る音を放っていたのである。
 飛王がその石に出会ったのは、ちょうど副理事長に就任した年、ある山あいの街を一人旅している時のことであった。人が立ち入ることが解禁されたばかりのその鍾乳洞にあった黒く輝く大きな石は、飛王にキーンという音と共に囁いた。まるで脳に直接語りかけるように。
「この音を聞いても正気を保っていられたなら、貴方には世界を征服する力がある。その時は私を身につけなさい」
驚いて飛王がその石に手を触れると、その石は音を止め、大小4つの石に分かれた。そして元々反侑子派で飛王についていたカイル先生と星史郎先生に見せると、二人とも正気を保ったまま、改めて飛王に忠誠を誓ったのだった。その後それぞれが石を指輪にして身に着け、飛王は軍事国家建設が己の使命だと改めて確信し、三人は強さに個人差はあるものの、指輪をかざすことで人を洗脳することが出来るようになったのだった。
 割れた石のうち、一番大きい石が真の力の源だ。チャイムを学園中に鳴らすメイン放送室の機器の奥に厳重に鍵を掛けて保管してある。石の発する音がチャイムに乗って学園中に響き渡り、全ての生徒と職員を催眠状態にし、催眠が掛かった者は指輪を持つ三人の命令だけを聞く。しかしそれは恒久的ではなく、定期的に音を聞かせなければ効果は薄れてゆく。
だからこそ放送ではなく、一日に何度鳴ってもおかしくないチャイムを利用したのだった。



15 突入準備

黒ファイ地球防衛軍


15 突入準備

「侑子はこの学園内にいます」
千歳の言葉に黒鋼は思わず言った。
「そんな馬鹿な、それならなぜ飛王はまだ理事長でいられるんだ?」
「学園内にいるだけです。多分どこかの隠し部屋にいるのでしょう」
千歳は言った。
「隠し部屋を作ると言い出した時は何を考えているのかと思ったものですが、役に立ったようで良かったですわね」
天照は溜息をつきながら言った。
「じゃぁどうする?ファイと侑子先生、二人とも同時に助けに行くのか?でも多分場所は違うよな」
黒鋼の言葉に知世が言った。
「たぶんではなく、絶対、ですわ」
「わかってるよっ。で、どうするんだ、二手に分かれるのか?」
「そうですわね、それよりも分析の結果、香りの方はいかがでしたか?」
知世は千歳に尋ねた。
「えぇ、微かに残っていた香りを増幅することはできました。しかし主成分が分かりませんからどのくらい効果があるか分かりません」
千歳は眉根を寄せた。
「では、とりあえず実験してみましょうか」
知世がにっこりと微笑んだ。

数日後、被験者には草薙が選ばれた。
実験が成功するにしろしないにしろ、味方になれば頼もしく、また効果が薄ければ多少無茶をして記憶を呼び覚まそうとしても大丈夫そうだからだ。それに黒鋼と同じクラスで仲が良いから不自然でもなかった。
いつかのように、部活のあとで待ち合わせてファーストフード店に行く。予め知世達が香りを用意して待機していることになった。
予定どおりの席に着き、二人は世間話を始めた。空調の風の流れに乗せて、香りを放つ。
「それで・・・っ!」
草薙は言いかけて、動きを止めた。黒鋼にも香りが漂ってきた。どこかで嗅いだような、安い香水にありがちなイヤな感じの香りだ。
「ううっ!」
草薙は呻きながら両肘ををテーブルに付き、頭を抱えた。黒鋼は固唾を呑んで草薙を見つめていた。
やがて草薙は顔を上げた。黒鋼を見留め、辺りを見回しながら言った。
「黒鋼・・?おまえ・・・?何で俺、こんな所に居るんだ?」
黒鋼達は歓声を上げた。

草薙は、黒鋼達から飛王の企み(推測だが)を聞くと、怒りに身体を震わせていた。
「まるでゲームか何かのように俺達を操っていたのか!」
「そうですわね。飛王にとってはゲームのような物でしょう。草薙君のお陰であの香りが役に立ちそうだと言うことが判って良かったですわ」
知世が言うと、草薙は口の端を上げ腕をぐるぐると回しながら言った。
「それで? 飛王を倒すんだろう? 具体的にどうするんだ?」


一同は再び情報科準備室の地下に集まっていた。
まずは侑子を捜さなければならない。ファイが捕らえられている部屋に3人が集まったところを見計らって侑子が飛王達の目の前に現れて動揺を誘うのだ。そしてファイ救出と飛王攻略を同時進行して飛王達を一網打尽にするというのが大まかな計画だ。とにかく侑子を探すのが何よりも先決だった。知世が言った。
「千歳先生、他に隠し部屋があるか分かりますか?」
千歳も同じ事を考えていたようだ。程なくして画面が幾つか現れた。
「隠し部屋は、私が知っているだけで3つあります。その内手紙を出せた事を考えると、理事長室の真上のここか、反対の端だと思います」
「理事長室の真上ってのは無いんじゃないか?足音は階下に響くし」
黒鋼は首を捻った。
「まぁ、裏をかくという意味では意外ではあるがな」
「そうですわね。でも侑子先生なら堂々と居そうですわ」
知世が言った。
「何か発信器の様な物が侑子先生に付いていればなぁ」
草薙の言葉を聞いて、天照が千歳に尋ねた。
「そう言えば、火事の対策に熱感知器をつける話はどうなっていますか?」
千歳はあっと声を上げ、ものすごい早さでパネルの操作を再開した。
暫くして画面上に赤い点が幾つも現れた。千歳は言った。
「この赤い点は35度以上のものを表示しています。それが移動すれば点も移動します。ここに点が集まっていますね? ここが私達がいる地下室です。正式な図面には載っていませんから部屋の名前は"?"になっています」
頷きながら知世が言った。
「では、他に"?"マークの部屋はどのくらいありますか?」
千歳がパネルを操作すると、いくつかの部屋がピックアップされた。先日見つけた隠し部屋にも、一つ、赤い点が表示されている。それを見て黒鋼は言った。
「やっぱりこの広い部屋に居るのはファイだな。見張りが居ないのは不自然だが、他にそれっぽい部屋もないし、決まりだろう」
「そうですわね。他の隠し部屋は誰もいないようですし」
天照も同意した。
「侑子はやはり理事長室の上辺りの部屋にいるようですね。そうすると、上手くすれば天井からファイが居ると思われる部屋に行けるかも知れません」
図面を見て、千歳が言った。
「あっ」
黒鋼が声を上げた。
「どうした?」
「おい、ファイの居る部屋に誰かが入ってきたぞ」
一斉に皆が注目すると、確かに新たな赤い点がもう一つの点に向かって移動している。そしてその点は、すぐ隣まで移動して止まった。
「見張りか? それにしては位置が変だよな。何もすぐ隣に来る必要はない・・・」
草薙が呟いた。
二つの点はそのままじっと動かない。暫くして後から来た方の点だけが移動し、部屋から消えた。
「不思議なのは」
知世が口を開いた。
「これがファイだとして、なぜ壁際にいないのでしょうか?もしも拘束されていないのならもっと動くはずです」
「確かにそうだな・・」
呟く黒鋼に、草薙は尋ねた。
「例えば手錠を掛けて長い縄か何かでどこかに結ばれていたとしたら、それは捉える側から見てメリットはあると思うか?」
答えられずにいる黒鋼に代わって天照が答えた。
「無いでしょうね。その縄を切られて逃げ出す可能性を考えて、柱や壁などに固定するのが定石です」
「じゃぁ一体どうなってるんだ? でもそこに侑子先生が居る隠し部屋から行けそうなんだよな?」
黒鋼が千歳に振ると、千歳は頷いた。図面を拡大し、今度は青で線を引く。
「この部屋のこの位置から天井裏に上がり、線に沿って進みます。おそらくこの辺りに出てくるでしょう。降りる時に敵に気付かれないようにしなければなりませんが」
「では、まず侑子先生の元へ参りましょう。千歳先生、図面をPDAか何かでお持ち下さいな」
知世が言うと、千歳は頷いてデータ転送を始めた。



黒ファイ地球防衛軍サイドストーリー

お知らせ


黒ファイ地球防衛軍を順次アップしているところですが、R18ストーリー2つを追記に収めました。
8 交際宣言 より「君が、欲しい」
11 覚醒  より「記憶喪失」
の二つです。

サイドストーリーというかえろヴァージョンというかwww
どこに収めるか迷ったんですけどね、追記の方が読み比べられるし、以前読んでいた人もそうでない人も判るかなぁと思いました。
是非お読み下さい。





14 隠し部屋と目的

黒ファイ地球防衛軍


14 隠し部屋と目的

 「黒鋼、クソババアとはどういう意味です?」
「千歳先生、生体認証に登録させて下さったお陰で入室できましたわ。ありがとうございます」 
二人が同時に話し始めた。
黒鋼はプイと明後日の方を見ている。
千歳と知世は微笑んだがすぐに真面目な面持ちになった。
「千歳先生、飛王の目的は分かりましたか?」
知世が尋ねると、千歳は首を横に振った。
天照は黒鋼を叱る事は止め、話に加わった。
「やはり映像から推測して対策を立てるしかないでしょう。問題の映像を見せて下さい」
千歳は再生を始めた。
「止めて下さい、少し戻しててコマ送りに」
不意に知世が言った。画面ではちょうど星史郎が隠し扉のスイッチを押し扉が開き始めている。
「はい、止めて下さい」
もう一度映像が止まった。知世は言った。
「ここで扉の中が一瞬映っています」
「訓練に行く時に通る通路とは違うな」
黒鋼は呟いた。
通路はどこかの研究所のようではなく、どちらかと言うと病院の様な雰囲気だ。
「すぐ左に曲がったよな、星史郎のやつ」
「そうですね、あちらには確かに保健室が有りますし」
千歳が学園の平面図を画面上に表示し、確認した。天照は千歳に言った。
「千歳、正確な距離を測って下さい。そして図面上から隠し部屋を探しましょう」
コンピュータに二つの部屋と具体的な壁面を線を引く様に指定すると、一瞬で距離が表示された。
併せて平面図上に空白が示され、クエスチョンマークが現れた。
「なんだ?」
黒鋼が首を捻ると千歳が答えた。
「データなし、つまり此所が隠し部屋です」
「やった!ファイは此所に居るんだ!」
黒鋼は小躍りして喜んだ。知世が意地悪く呟く。
「あら、随分広い様ですから演習場かも知れませんわ」
黒鋼は知世を睨んだ。
「確かに広いですわね。しかし演習場だとするには狭いのでは?それに演習場は幾つも部屋がありましたし」
天照も言った。
「多分演習場はこの隠し部屋の地下にあるんじゃないか?」
ふと黒鋼は呟いた。
「もしそうなら全てが繋がる。演習場から怪我人を保健室に連れて行く時にやたら長い廊下だと思ったんだ。カイル先生が立っていた辺りから急勾配だった」
「まぁ黒鋼にしては鋭いですわね。確かにこの図面から考えると急勾配がありそうですわ」
知世が言うと黒鋼は
「黒鋼にしては、は余計だ」
と言って知世を睨んだ。
「こちらの端が廊下程度の距離を置いて保健室と隣接しているようです」
図面をチェックしていた千歳が顔を上げて言った。
「この部屋は確か薬品や消耗品をしまっている倉庫でですね。こっそり扉等を作るにはうってつけですわね」
天照が言うと、千歳が口を開いた。
「では、どのようにするかですが、まずは侑子からの手紙を分析しませんか? 彼女の事ですから何か隠してあることでしょう」
黒鋼と天照は手紙を取り出し机上においた。千歳が言った。
「では、まず紙を分析しましょう。香りとやらがまだかすかにあれば、複製することも出来るかも知れません」
千歳は手早く検体を作ると分析室へと持って行った。
「やはり、何が目的なのかが分からないとどうしようもありません。何か思い当たることはありませんか?」
天照が言った。
「生徒に催眠をかけてまで銃を持たせたい理由か。学園を乗っ取るだけなら銃なんて扱えなくてもいいよな?」
「つまり、生徒を兵に仕立て上げたい理由があるということですね」
「飛王先生はなぜ理事長になりたかったのか、という事に繋がりますわね」
知世も言った。
千歳が戻ってきた。
「飛王は校則をもっと厳しくするべきだといつも言っていました。でもこの堀鍔学園は自由な校風をモットーにしています。だから他のどの先生も、飛王先生の意見に反対し、説得し続けていたのです」
「それなのに、侑子理事長は学園を追い出された・・・」
黒鋼はそう言ってから、はっとして知世を見た。
「そう言えば、知世はなんで此所に居るんだ?それに千歳先生は催眠術にかからなかったのか?」
黒鋼が言うと知世は笑った。
「始めからあんな物にかかったりしてませんわ。ね、千歳先生」
「ふふ、1学期最初の7時間目の授業の時、私達はちょうどこの部屋に居たのです。流石に此所まではチャイムの音はしても、催眠効果は無かったようです」
「なるほど、地下室ですしね。催眠は不完全なものかも知れませんね。そこにつけいる隙があるかも知れません」
天照が言った。
「そうですね、放送が聞こえないと何かあった時に困りますから、全ての放送が入るようになっています。しかしこの部屋を知っているのは此処にいる私たち4人と侑子だけですから、地下にまで効果が現れるほど強い催眠にする必要はなかったのでしょうね」
千歳は頷いた。
ドンッ
黒鋼が壁に拳をぶつけ、二人を激しく睨みつけた。
「じゃ、今までなんで行動を起こさなかった?あんた達二人が何か行動していたら、ファイは誘拐されなかったかも知れない!」
黒鋼が大声を出したが、知世は涼しい顔だ。
「あら、一応調べてはいましたわ。ただ、理事長室の中まで入れなくて苦労していたのです。あの日、なぜファイが中に入れて貰えたのか、まるで来るのが分かっていたかのように迎えられていますから、その方が不思議ですわ」
黒鋼は言葉に詰まり俯いた。多分、自分がいけないのだ。催眠にかかっている振りをしてけが人を運んだ時、星史郎先生に疑われたに違いない。カイル先生もドジなように見えて、意外と気付いていたのだろう。
千歳はそんな黒鋼を見ていった。
「確かにファイは心配ですが、今は原因よりも対策を考えなければなりません。早く侑子に戻ってきて貰わないと私も困りますし」
「なにかありましたか?」
知世が尋ねると千歳は怒りに震えながら言った。。
「飛王先生は、情報技術科の研究費を半分にすると言ってきたのです。半分にされたらこの地下室の設備を売りでもしないととても間に合いません。そんなことになっては困ります」
黒鋼は千歳が怒っているのを初めて見たが、その理由が自分の研究のためとは思わず笑ってしまった。
「ですから、侑子には一刻も早く戻ってきて欲しいのです」
千歳が言った時、奥の部屋でビーという音が鳴った。
「あ、分析が終わったようです」
千歳は分析室へと向かった。
「相変わらずマイペースだこと」
天照が千歳の後ろ姿を見送りながら言った。
「では、纏めると、飛王の企みは『生徒を兵に仕立てて何か事件を起こす』でしょうか?そしてそれにはお金がかかるようですね」
知世が話を纏めた。
「そうだな。銃を仕入れるのにも金がかかるだろうし。さすがに国を乗っ取っとろうとか大それたことは考えてないと思うが」
黒鋼が言うと、天照が叫んだ。
「まさか!」
知世も頷いた。黒鋼は何が何だか分からずに二人を交互に見ていた。
「な、なんだよ二人とも」
「そうですわ、きっと飛王は軍事国家を作ろうとしているのですわ」
黒鋼は驚いた。
「まさか! いくら強力な催眠を掛けられたって、たかが学園を一つ乗っ取ったくらいでそんなこと出来るわけ無いだろう?」
天照は首を振った。
「黒鋼、この学園には何人の人々が関係しているか知っていますか?」
「え、幼稚部から大学院まで、教職員やその家族を入れて1万人・・」
「その1万人が全て飛王先生の言いなりでしたらどうでしょう?」
知世も言った。黒鋼は空恐ろしくなった。たしか数年前に細分化された国会議員超小選挙区選挙では、堀鍔学園一帯が一つの選挙区となり、非常に珍しいケースとして全国のニュースにもなっていたはずだ。
「一度議員に選ばれてしまえば後は誰にでも催眠を掛けられるように準備することは可能でしょう。全国の議員を通じて飛王の言うなりになるよう、更に催眠を広げることも出来るでしょうから」
「それに、飛王は1万人の人質を持っているのも同じです。しかも兵として仕える、若い人質です。国を嚇かすのも訳ないことでしょう」
そこに千歳が戻ってきた。
「香りの分析が出来ました。多分上手くいったと思います。そして状況を考えると、侑子はこの学園内にいると思います」
「ええっ!」
三人は同時に声を上げた。



13.情報科準備室の秘密

黒ファイ地球防衛軍


13.情報科準備室の秘密

情報技術の授業が終わった。この科目ではプログラミングや情報処理についてだけでなく、実際にコンピュータやその他のシステムを実習で作成し、自分で組んだプログラムを走らせる。将来コンピュータ技術者を目指す者は必ず学ぶ科目で、ここ数年急激に科学技術と情報化が進んだ結果、各学校に設置が義務化された教科だ。
「黒鋼君、この後残ってください」
情報技術科を担当している千歳先生に残る様に言われ、黒鋼はやっぱり、と思った。
今日は朝からファイと侑子の手紙のことで頭がいっぱいで、テスト返却の時間だというのに名前を呼ばれても返事さえないという有様だったのだ。
6時間目が終わったと言うこともあって、他の生徒達は波が引く様に教室から消えていく。黒鋼は今日は7時間目はないはずだ、とぼんやりとその波を眺めていた。
「黒鋼君、聞いていますか?」
千歳の厳しい声にはっと我に返った。
「すみません・・・」
千歳は溜息をつくと言った。
「ファイが居なくなったのがそんなに心配ですか?」
「はい・・・えっ?」
黒鋼は驚いて千歳を見つめた。
「居なくなった、ってなぜ知っているのですか?」
黒鋼の問いに、千歳は声を落とした。
「侑子から何か預かっていませんか」
「はい・・・てが・・・」
言いかけて、黒鋼は躊躇して口を噤んだ。千歳は何を何処まで知っているのだろう。もしかしたら飛王の側の人間かも知れないのだ。
「手紙が来たのですね?」
重ねて問われ、黒鋼は迷ったが、探りを入れることにした。
「ファイが居なくなったとどうして思うんですか?あいつは今入院中・・・」
「貴方が今『なぜ知っているのか』と言いました」
千歳は黒鋼の言葉を遮り、フッと笑うと続けた。
「私の部屋のモニターには映らない部屋はないのです。ファイが何処にいるのか、お見せすれば信じて貰えるでしょう。いらっしゃい」
黒鋼は驚いて千歳の後に続いた。


千歳が情報科準備室の前に立つと、自動でドアが開いた。続いて中に入ると、一見そこは何の変哲もない準備室だった。モニターとやらが有る気配はない。千歳は続き部屋のドアの開閉スイッチに触れると、黒鋼を招き入れた。
そこは宿直室のように見えた。しかし電気のスイッチのパネルを開きその陰から最新式のミニコンを取り出した千歳がそれを操作した時、只の部屋ではないことが分かった。
黒鋼が立っていたほんの2mほど先の床がグイーンと音を立てて開き、地下への階段が現れたのだ。黒鋼は驚いて声も出なかった。いくら科学技術が進歩し、この堀鍔学園はあらゆる最新設備が整っているとは言っても地下室とは。しかも隠し階段になっているのだ。千歳はその階段を下り、黒鋼も地階へと歩いていった。
そこは正しくモニター室だった。無数のモニターが壁や天井に並び、正面にはおそらく100インチはあるだろう大型モニターが幾つも備えられていた。
千歳はその大型モニターの前に座ると、パネルの操作を始めた。ピッピッと心地よい電子音が部屋に響く。千歳は言った。
「ファイが最後に学校に来たのは期末テストの始まる前日でしたね」
「あぁ。その日、一緒に帰る約束だったのにすっぽかされたんだ」
苦々しげに言った黒鋼は、はっとして謝った。
「あ、すみません、先生・・・」
「構いません、ただし、このことが解決するまでですよ」
千歳は微笑んだ。
「じゃぁ、遠慮無く・・もしかして、放課後ファイが何処にいたのか知っているのか?」
「ファイは此処にいました」
大きなモニターが分割され表示されていたうちの一つが大映しになる。
「! 理事長室だ!ファイっ!」
黒鋼は叫んだ。ファイの後ろ姿は小さいが、間違なくファイだ。しかし黒鋼は訝しげに首をひねって言った。
「この映像、おかしくないか? 音声も無いし、まるで隠し撮りの様な感じだ」
「よく気付きましたね。飛王は理事長に就任直後、理事長室内の明らかな防犯カメラを全て外させ、新たに設置させました。しかしこのカメラには気付かなかったようです。そしてこのカメラは二つの大事な場面を捉えていました」
千歳はそういうと、映像を切り替えた。やはり音声はない。星史郎がファイを抱えながら飛王と思われる誰かと話している。そして映像の中の星史郎は隠し扉を開けるとファイを抱えたまま中に消えた。
映像はそこまでだった。
「あの部屋は?早く映像を出してくれ!」
画面が終了してしまい、黒鋼は叫んだ。
しかし千歳は首を振った。
「あの部屋は飛王が後から作らせたようです。そこまでは私のカメラは有りません」
黒鋼はガックリとうなだれた。千歳は言った。
「でも、さっきの映像からスイッチの在処はわかりました。こういう訳で侑子から手紙が届いていないか聞いたのです。答えてくれますね?」
黒鋼は顔を上げた。
「なぜ俺にファイの事を訊いたんだ?俺に何をさせたい?」
先生は本当に味方なのか、黒鋼はまだ量りかねていた。
「天照から話は聞きました。貴方達交際しているそうですね」
黒鋼は恥ずかしさに真っ赤になって叫んでいた。
「な、なんでその話になるんだ、あのクソババア!」
「まぁ、クソババアとか言われてますわよ」
後から聞き慣れた声がして二人が振り向くと、そこには怒りに震えた天照とにこやかに微笑んだ知世がいた。



12.侑子からの手紙

黒ファイ地球防衛軍


12.侑子からの手紙

「黒鋼、手紙が届いていますよ」
天照から封書を受け取った黒鋼は、怪訝そうに封筒を観察した。蝶が描かれた封筒は宛名もなければ差出人もない。天照を見やると、彼女は言った。
「侑子からです。私宛の手紙に隠して送ってきました。どうやら侑子は何か大きな事件に巻き込まれた様なのです・・・」
大きな事件と聞き、黒鋼ははっとして、封筒を開けた。便せんが一枚入っていた。
「     」
何も書いていない。
「なんだよ、白紙じゃねぇか」
黒鋼が悪態をつくと、天照は言った。
「つまり、何も書けない。それ程の危機にいると言う事だと思いますが、何か心当たりは有りませんか? わざわざ貴方に手紙を送るには理由があるはずです」
「・・・」
黒鋼は答えられなかった。叔母である天照だが、堀鍔学園の教員であり、必ずしも催眠にかかってないとは言い切れない。それにまだ侑子のピンチが飛王と関係あるかもわからない。そう言えば、なぜ理事長が変わったのだろう。例え乗っとられたとしても、少なくとも表向きの理由があるはずだ。黒鋼は口を開いた。
「なぜ侑子先生は理事長を辞めたんだ?」
天照は溜め息を吐くと言った。
「訊いているのはこちらだというのに。侑子は辞めたくて辞めた訳ではないと思います。理由はわたくしも知りません」
「知らない?」
黒鋼は眼を見開いて驚いた。侑子と天照は幼馴染みで、侑子が暇な時はよく国語科職員室に来ている事は黒鋼も知っていたからだ。
天照は頷いて答えた。
「飛王理事長によると侑子は旅行に行くと言っていたそうですが、わたくしは何も聞いていません。いつもなら旅行前から計画を語り、旅行中にはメールで写真を送ってくれるのですが、今回はもう3ヶ月も、何も連絡がないのです」
「そうか・・・」
黒鋼は呟くと指を組んで考え込んだ。
ならば侑子は失踪又は拉致られたと考えて良いだろう。手紙を送れるということは、自ら失踪したのか。なぜ黒鋼が飛王を探っていると知っているのかわからないが、助けを求めているのだろうか。
「それで、黒鋼には心当たりはないのですか?」
痺れを切らし、天照は再度尋ねた。黒鋼は天照を真直ぐに見つめると言った。
「あんたは、7時間目がある事を知っているか?」
天照は思い詰めた様に、ゆっくりと言った。
「・・・週に一度、ね・・・」
意外な答えに黒鋼は凍り付いた。まさか、天照さえ飛王の仲間だったのだろうか。天照は言った。
「侑子からの手紙には不思議な香りの香水がついていました。いつも彼女が使っているものとは違うものです。そしてその匂いをかいだ時、わたくしは正気に戻りました」
「正気って、じゃぁ」
黒鋼の言葉の後を天照は引き取った。
「そう、私も催眠にかかっていたようです・・・。だからこそ、侑子から連絡が無くなって3ヶ月も、何もしなかったのです・・・」
「あんたはどう思う?手紙を送れるくらいなのだから、生きては居るんだろうが」
天照は微笑むと言った。
「生きているのは確かでしょう、あの理事長室は特別製です。一時、忍者スタイルを気に入った侑子があちこちに隠し扉や隠し階段を造っていましたから、逃げることは簡単だったはずです」
「なんだそりゃ。まぁ、役に立ったならいいけどな・・・」
黒鋼は呆れた。やっぱりあの理事長は変なヤツだ。
「そう言えば、なぜこの何も書いていない封筒が俺宛だと判ったんだ?」
「私の手紙には『この封筒を弟に渡して』とだけ書かれていました。侑子には弟妹は居ませんし、私の弟妹は知世しか居ませんから、私の弟と言えば黒鋼、貴方のことでしょう」
「じゃあ、俺宛の手紙は白紙なのは? 肝心なことが書いてないんじゃSOSだとしても助けようがないよな」
「そうですね・・・」
二人は考え込んでしまった。



11.覚醒

黒ファイ地球防衛軍


11.覚醒

 黒鋼は全てを思い出した。そして現実を理解するに連れ、自分に腹が立って仕方なかった。恐らくファイは一人で潜入し、捕まってしまったのだろう。そうでなければつじつまが合わない。そして桜塚先生が、自分の記憶を操作したに違いない。
黒鋼は慎重に計算した。どう考えても分が悪い。向こうは他にも桜塚先生やカイル先生のような味方が沢山いるだろうし、全校生徒や教職員を人質に取られている様なものだ。何とかして弱点になる様な何かを掴まなければ、ファイを取り返し、学園を解放するのは難しいだろう。
生徒に銃を持たせる、真のが目的が何なのか、それを知らなければ阻止する方法も解らない。黒鋼は頭を抱えた。


 ファイは目を覚ました。ゆっくりと瞳を開け起き上がると、辺りを見回した。そこは見た事の無い部屋だった。がらんとして何もない部屋。
「ここどこ・・・?」
少しずつ思い出した。理事長室で飲んだ紅茶に何か入っていたのだ。遅効性で無味無臭の薬だったようで、全く気付かなかった。もっと警戒するべきだったとファイは唇を噛んだ。
腕は拘束されていなかったが、足枷をつけられていた。何で出来ているのだろう、繊維とも動植物の皮膚とも思える素材だ。まるで誂えた様にファイの細い足にぴったりと吸い付いて、端は壁から緩く延びていた。引っ張るとスライムのように伸び、感触もまたそれの様で気持ち悪い。とても切る事は不可能だった。そのせいか広い部屋には仕切りはなく、牢屋の様な鉄格子も無かった。
と、ドアが開く音がして、桜塚先生が現れた。
「桜塚先生!」
思わずファイは立ち上がった。こんなところに味方が居るとは思えない。ファイは緊張した面持ちで桜塚先生を見つめた。彼は微笑むと口を開いた。
「ファイ、君か黒鋼が必ず来ると思っていましたよ」
ファイは愕然とした。自分はまんまと敵の罠に嵌ってしまったのか。憤り頬が紅潮するのが分かった。桜塚は続けた。
「黒鋼と二人で7時間目の謎を解こうとしていましたね。わざと洗脳された振りをしていたのは知っていました。しかし今度は君を確実に洗脳させて貰います。君が相手なら黒鋼は何も出来ない。万が一あの人が戻ってきても親戚に手を出すことは出来ないでしょう。つまり、君には僕達の切り札になって貰います」
普段の物腰が軟らかい分だろう、その台詞は言葉以上の恐怖をファイに与えた。
しかしファイは桜塚をキッと睨むと一気に叫んだ。
「先生達は何を企んでいるんですか? 生徒に銃を持たせて、いったい何が目的なんです? それに黒鋼は来ない!オレ達は付き合ってなんかないっ! だってオレは男なんだから!来る筈がないでしょう?!」
「な、」
桜塚はかなり驚いたようだった。しかしすぐに態勢を立て直して言った。
「君が本当に男だと言うならなぜ女子の制服を着ているのですか。確かにタイは男子用のようですが」
ファイは返答に詰まってしまった。理由などない。強いて言えば、似合わないから。そして入学した時に侑子にそれを許可されたからだ。しかしそんな事今話している場合ではない。ファイは言った。
「それを知らない事こそおかしいじゃないですか。あの人が万が一戻ってきたら、と言いましたね?
侑子先生が旅行中なんて嘘なんですね? 先生をどうしたんですか?」
一生懸命強がっても、態勢を立て直した桜塚には通用しない。
「君が男だと言うことが本当だったとしても、侑子前理事長については知りませんよ。こちらも探しているのですから」
桜塚はまっすぐにファイを見つめると言った。
「貴方達が僕らの事を暴いてどうするつもりなのか知りませんが、一番大事な事を忘れている。
君が今囚われている事に変わりはない。そして黒鋼は仲間や友人を見捨てる様な人間ではない。彼の催眠が解けたら、君を救い出そうと必ずやノコノコと捕まりに来るでしょう。そしてその日を境に、君たちの記憶はこの世から完全に消えるでしょう。まもなく夏休みです。チャイムによる催眠が切れるのも時間の問題。つまり、運命の日は近いと言うことです」
桜塚はそう言うと、右手を挙げた。足枷が繋がっている壁の一部からまるで生き物の様に手枷が現れ、ファイの両腕に絡みついた。
「イヤっ、止めてっ」
ファイは膝をついた。
「これは僕が開発した『鬼児』と呼んでいるものです。生き物の様でそうではない、しかも絶対に切る事も出来ない、枷にぴったりなものです。さぁ、紅茶を飲みなさい。次に目が醒めた時には君は私たちの忠実なロボットになっている筈です」
新たな鬼児がファイの顎を持ち上げ、強引に口を開かせた。
「黒鋼・・・」
名前を呼びたくても声は出ない。
いつの間にか涙が頬を流れていた。






10 頭痛

黒ファイ地球防衛軍


10 頭痛

黒鋼は怒っていた。ファイと連絡が取れないのだ。携帯も電源を切られ、自宅の電話も誰も出ない。何かあったのかとファイと同じクラスの生徒に聞いても、また具合が悪いのだろうと大して気にしていない様子だった。
黒鋼はファイの自宅に行って見みた。やはり誰も居ない様だ。人が住んでいる気配はある。
まるで永いこと旅行で家を空けているかのようだ。
黒鋼がそう思った時、激しい頭痛に襲われた。何か忘れているような、思い出さなければならない大事な事を忘れているような気がして、黒鋼は思わず頭を掻き毟った。
「旅行、そう、旅行だ・・・誰かが行くって言ってた・・・誰だっけ・・・?」
必死に記憶の糸を手繰り寄せる。そう、あの性悪理事長だ・・・。
そこまで思い出したものの、黒鋼は再び激しい頭痛に襲われ、その場に蹲った。

「・・がね、黒鋼、こんなところで何をしているのです」
黒鋼が眼を開けると、天照が自分を見下ろしていた。
「?・・・!」
無様にも道端に寝転んでいたらしい。黒鋼は頭を振り立ち上がった。服の汚れをはたいて落とす。そんな黒鋼を呆れ顔で見ながら天照は黒鋼に尋ねた。
「どうしたというのです?体調が悪い様でもなさそうですし、何かあったのですか?」
「何でもねぇ」
黒鋼はそれだけ言うと歩き出した。天照は後ろから黒鋼の背中に向かって呼びかけた。
「ファイならここには居ませんわよ」
黒鋼は振り向くと天照の元へと走った。
「なんでお前が知ってる?」
凄む様に言ってもこの叔母には何の効果もない。彼女は黒鋼をからかう様に言った。
「何をかしら? そうそう、やっぱり貴方達付き合っていたのですね」
黒鋼は真っ赤になりながらも反論した。
「今言ってるのはそういう事じゃねぇ!お前アイツが、ファイが何処にいるのか知ってるんだな?」
あまりの剣幕にほんの少し驚いた天照だったが、いつものように口を開いた。
「勿論わたくしがファイの授業を受け持っているからです。今あの子は入院していますわ」
天照は堀鍔学園で国語を教えている。黒鋼は愕然とした。居なくなった、ほんの数日前まで一緒に帰っていたし、何よりデートしたのはつい先週の事ではないか。
そんな黒鋼を見て天照は気の毒そうに言った。
「あの子は相当悪い様です。夏休みが終わるまで持つかどうか、という容態だそうですから」
「そんなに悪いのか?!」
黒鋼は思わず大声で叫んだ。
「えぇ、面会謝絶だそうですわ。親御さんも病院にいると聞いています」
黒鋼は俯いた。そんなに具合が悪いのに、俺は全く気付いてやれなかった。
大きな後悔が黒鋼を襲った。

 その後黒鋼は頭痛に見舞われる事が多くなった。今までそんな事は全くなかったから、頭痛薬を飲むのも気が引けて、そのままにしていた。それに、頭痛がしている間に、何か大切な事を思い出せそうな気がしていたのも事実だった。
「草薙、今日は部活の後で時間あるか?」
「あぁ。珍しいな、恋の相談なら他を当たれよ」
「ぶわぁか、ちげーよ」
笑いながら言うと、草薙も笑った。
「そりゃそうだ、お前ら相思相愛だもんな。彼女が休みで寂しいとか言うなよ」
「言うかっ」
何でもない会話に、頭痛が癒されるような気がした。

 ファーストフード店に入った黒鋼と草薙は、主に学園生活の話、とりわけ部活の話をした。
先日草薙が怪我をしたという話を聞いた時、黒鋼は再び激しい頭痛に襲われた。
「ううっ」
思わず声を上げ、テーブルに突っ伏した。ジュースやトレイが落ちて、大きな音をたてた。
「黒鋼、おい、大丈夫か?おい、黒鋼!」
草薙が叫んだ。
「血だ・・・」
「えっ、怪我したのか?大丈夫か?」
「そう、血が付いていたんだ」
「・・・?」
草薙は怪訝な顔をしている。黒鋼は立ち上がった。
「・・・ファイ!」
黒鋼は全てを思い出した。




9.捕獲

黒ファイ地球防衛軍


9.捕獲

黒鋼と正式に(?)付き合う事になったものの、ファイは複雑だった。
あれから黒鋼は7時間目のチャイムを話題にしない。記憶を消され、新たに記憶を植え付けられているのは間違ない。そうでも考えなければ、いくらお昼を一緒に食べていたからといって、ただの部活の先輩と後輩が、突然付き合う(しかもかなり前から付き合っていた事になっていた)事になどなる筈もなかった。
だから、ファイは一人で調べる事に決めた。
そして壱原侑子前理事長は長期の旅行に出ているという話だったが、まもなく夏休みを迎えるというのに、親戚の誰も連絡が取れていないというのもファイは気にかかっていた。尤も黒鋼は、
「あのババア、理事長辞めたのは旅行したかったからかよ」
などと文句を言っていたのだが。

期末テストが明日から始まる。テスト前最後の授業ということで、皆集中して臨んでいた。
放課後ファイは、出席日数の確認という口実で、理事長室を訪れた。今日は訓練がない日だからだろうか、ノックしてクラスと名前を名乗るだけで火星がドアを開けてくれた。ファイは言われたとおりソファに座ると、できるだけ慎重に話を切り出した。
「理事長先生、オレは2年のファイといいます。休みがちなので、テストの前に出席日数の確認をしたいのですが」
飛王は愛想よく微笑むと言った。
「あぁ、君がファイか。噂には聞いているよ。非常に優秀なのに出席日数が足りなくてやむを得ず留年したそうだね。心配するのも無理はない。火星、調べてあげなさい」
「はい」
火星はもう一人の秘書に調べる様告げると、ファイに紅茶を持ってきた。
後から思えばファイは少し警戒が足りなかった。火星が淹れたその紅茶には、睡眠薬が入っていたのだ。
ファイはソファに座ったまま眠ってしまったのだった。

奥の部屋からカイル先生と桜塚先生が現れた。
「やはり探りに来ましたね。黒鋼の方が来るかと思いましたが」
「あぁ、優秀だと言っても所詮ガキだな。女の方が扱い易くて良いだろう」
飛王は二人に言った。
「問題はこんなガキ共より前理事長だ。何とかして見つけ出し、始末しろ。このガキは星史郎、お前に任せる」
「わかりました」
星史郎は隠し扉を開けると、ファイを抱え上げ、中に消えた。




8.交際宣言

黒ファイ地球防衛軍


8.交際宣言

ところがファイは久しぶりに熱を出してしまった。夕方になって少し落ち着いた頃、黒鋼が見舞いにやって来た。
「ファイ、大丈夫か?」
そう言いながら部屋に入って来た黒鋼は、ファイを見て絶句して。真っ赤になって一声叫ぶと部屋を飛び出した。
「わりぃっ」
ファイも思い出した様に叫んだ。
「きゃぁっ!」
ファイはちょうど汗をかいた下着を着替えていたところで。まぁ要するに裸だったのだ。

黒鋼はドアの外に出るとファイの姿を思い出した。なんか、変だったような・・・。
と、ドアが開いてファイが顔を出した。
「もういいよ」
「あぁ、体調はどうなんだ?」
二人とも真っ赤になりながら部屋に入った。
「うん。思ったより早く熱が下がったから明日は行けると思う」
「ばーか、明日は土曜。休みだ」
「あっ・・・」
二人は同時に笑い出した。黒鋼は、ふと思い出して言った。
「そうだ、明日は部活があるけど明後日は休みなんだ。それをついでに伝えようと思ってたんだが。せっかくの休みだから久しぶりにデートしようぜ?」
「えーっ!デート? 久しぶりって??」
ファイは驚いて大きな声を上げた。黒鋼は怪訝な顔をしている。
ファイと黒鋼は別に付き合っているわけではない。自分は告白していないし、大好きな黒鋼に好きだなんて言われたら一言一句忘れる筈もない。ファイは混乱していた。
「なんだよ、嫌なのか?」
黒鋼の不機嫌そうな声にハッとして、ファイは慌てて答えた。
「も、もちろんイヤじゃないよ、すっごく嬉しい。で、でも本当にオレでいいの?」
どもりながら尋ねたファイに黒鋼は不思議そうにしながら言った。
「なんで自分でいいか訊く方がわかんねぇよ、付き合ってるんだから当たり前だろう」
ファイは驚きと喜びで失神しそうだった。何とか意識を保つ。
「オレ達付き合ってるんだっけ?」
「はぁ?」
黒鋼からすれば世にも奇妙な質問だったに違いない。
「好きでもない奴と弁当食う訳ねぇだろう」
「でもお友達となら・・・」
真っ赤になって俯きながら、まだグチグチというファイの言葉を遮るようにして、黒鋼はファイの頬に触れた。ファイはぴくっとして顔を上げた。黒鋼の顔が近付いて来る。
ファイは瞳を閉じた。

「信じられるか?」
黒鋼が囁く。
こくん、とファイは頷いた。

例え誰かから与えられた気持ちでも、ファイは大好きな人と共にいたかった。



7.額に手を

黒ファイ地球防衛軍


 7.額に手を


 黒鋼は一年生を連れて教室を出て理事長室へと向かった。カイル先生がまだ廊下に立っていた。黙ってその前に立つと、黒鋼と一年生の額にそれぞれ手を当て、何事か呟いた。
くらっと軽い目眩と共に頭がぼうっとしてくる。黒鋼は何とか意識を保とうと必死だった。
「行け」
カイル先生の声にハッとし、しかし術にかかっていない事に気付かれない様、黒鋼は慎重に廊下を進んで行った。

コンコン
保健室のドアをノックするのとほぼ同時に桜塚先生がドアを開けた。カイル先生から連絡が行っていたのだろう。桜塚先生は黒鋼から一年生を受けとると、黒鋼に言った。
「もう授業が終わる。今日はもう帰りなさい」
カイル先生がした様に、黒鋼の額に手を当てると、何事か呟いた。
「うっ」
黒鋼は思わず呻いた。カイル先生とは比べ物にならない程の強い力だ。
桜塚先生の表情が誰にも分からない程度に変わったのを、黒鋼もまた気付かなかった。


黒鋼は荷物を持って校門へと歩いていた。保健室から自分の教室に戻ると手に血が付いていた。手を洗い、荷物を持ったものの、釈然としなかった。あれは自分の血ではなかった。自分は怪我などしていない。考えながら剣道場の前を通り過ぎようとした時、黒鋼を呼ぶ声がした。
「黒鋼君」
一瞬だれか判らなかった。少し考えて、思い出した。剣道部マネージャーのファイだ。
ファイはそんな黒鋼を見て、怪訝な顔をしている。黒鋼は思い出した。ファイと待ち合わせをしていたのだ。
「黒鋼君どうしたの?約束どおり剣道場で待っていたら素通りしてくんだもん」
「あぁ、悪かったな。じゃ帰ろうか」
そう言うと黒鋼は歩き出した。ファイはその場から動けなかった。やはりあの音がした時何かあったのだろうか。それとも授業の後に皆が受けていたセンサーの様なものを上手く避けられなかったのか。そのセンサーは一人ずつ受けるのだが、さながらラッシュ時の自動改札機のようで、ファイは他の生徒に紛れて上手く避ける事が出来たのだった。
「おい、早く帰ろうぜ」
「うん、今行く」
ファイは一つの決心をした。





6.射撃訓練

黒ファイ地球防衛軍


6.射撃訓練
廊下を歩く生徒の目に生気はない。虚ろな瞳とはこういうことを言うのだろう、と黒鋼は思った。
ファイは、寝ぼけているような表情を作って歩いている。黒鋼もそれに習って、後に続いた。
ついに、理事長室への潜入に成功した。

理事長室の壁であったはずの場所が、大きく開いていた。隠し扉になっていたのだ。
奥に入ると、まるでどこかの研究施設のような廊下が続いていた。廊下を曲がると、カイル先生が居て、一人一人に部屋の番号を指示していた。
「お前はA−2教室だ」「お前はB-7」
黒鋼とファイはそれぞれ指示された部屋に向かう。と、草薙が部屋に入っていくのが見えた。
「あいつも操られてるんだろうな」
黒鋼が呟いた。
「気をつけろよ、後で剣道場に来い」
「無茶しないでね」
二人はそっと囁き合い、それぞれの教室に入った。

黒鋼がドアを開けると、そこは戦場だった。マシンガンを打つ音が鳴り響いている。戦争さながらに銃を持ち、撃ち合う生徒達。黒鋼は草薙を見つけ、駆け寄った。
「お前、気は確かか?」
黒鋼が問うと、草薙は焦点の合わない眼で答えた。
「敵は全て殺せ。敵は全て殺せ」
正に催眠状態だ。呪文のように同じ言葉を繰り返している。
辺りを見渡すと、ミリタリー柄の服に既に着替えた生徒達が、銃の手入れをしたり、射撃練習をしたりしている。奇妙な事に、どの生徒も虚ろな眼をしていながら黙々と銃を調整し、訓練を続けている。やむを得ず黒鋼も着替えると、他の生徒に習って銃を手にとり、手入れをしている振りをした。
バーン!
授業が終りに近付いた頃、不意に大きな音がして黒鋼は飛び上がった。誰かが銃を暴発させたらしい。
見ると、1年生らしき生徒が血だらけの手を押さえて立っていた。しかし痛いとも何とも言わない。ただ流れ出る自分の血を虚ろな眼で見ていた。
事務員の女性が部屋に飛び込んで来た。黒鋼の境遇に同情してくれ、よく世間話などをしていた人だ。彼女は生徒達と同じ瞳で黒鋼に言った。
「君、桜塚医師のところに連れて行きなさい。いつもどうり処分しろと言うでしょうが」
処分という言葉に口を開きかけたが、ここでバレたら全て水の泡だ。黒鋼はグッと堪えると言った。
「・・・はい」

一方ファイもまた、生徒達が銃を持ち黙々と訓練を受ける様子に驚きショックを受け、思わず両手で顔を覆って座り込んだ。危うく気絶しそうになったが、なんとか踏みとどまる。
「春香!」
ファイは叫んだ。クラスメイトの春香は休みがちなファイの唯一の友人で、彼女はライフルを持って的を狙っていた。なんと的は人だった。やはりクラスメイト同士が撃ち合いをしているのだ。
「邪魔をするものは全て敵。敵は全て殺す」
呪文の様に呟いている春香から、ファイはライフルを取り上げるため駆け寄りたかった。しかし怪しまれないよう、我慢して銃の手入れをしている振りをし続けた。

近くの部屋からバーンという音がして、ファイは黒鋼を心配していた。怪我などしていないだろうか。
きっと7時間目が終われば皆元に戻る。そう信じて、訓練を受けている振りをした。
いつもより長く感じられた、50分だった。



5.催眠

黒ファイ地球防衛軍


5.催眠
 5時間目が終わり、ファイは剣道場へと向かった。二人が一緒にいてもおかしくない場所を待ち合わせ場所に、ということで選ばれた場所だ。
6時間目に武道の授業がないことは確認済みだ。黒鋼は既に来ていて、二人は教室棟がよく見える窓を選んで覗き込んだ。窓と言っても、剣道場には普通の窓はない。床に近いところに腰の高さほどの通気窓があるだけだ。だから二人は床に座って覗いていた。
「本当に、何か起きると思う?」
ファイが囁いた。
「さぁな、何かが起きてくれないと面白くねぇけど」
「そんな不謹慎な」
ファイは顔をしかめた。黒鋼はクスリと笑うと言った。
「お前、しかめた顔も可愛いな」
ファイは真っ赤になった。言い返そうとした時、黒鋼が外の様子に気付いて言った。
「おい、みんな理事長室に向かってるぞ」
「本当?」
「見ろ、あの廊下の突き当たりは理事長室だ」
見れば、教室から廊下へと人の波が続いている。全校生徒が理事長室に入るとは思えない。
「理事長室の中に部屋があるんだ!」
黒鋼は興奮してそういうと、理事長室に向かって走り出した。慌ててファイもそれに続く。しかしすぐに疲れてしまい、歩き出してしまった。
ファイが歩き始めたことに気付いた黒鋼は、踵を返すとファイを抱え上げ、再び理事長室に向かった。
「あの、黒鋼君・・」
ファイは恥ずかしくて顔から火を噴きそうだ。
「黒鋼、だ」
黒鋼はそれだけ言うと、校舎には入らず理事長室の窓の下の茂みに隠れた。
飛王の声が聞こえる。秘書の火星も一緒のようだ。
「今日はマシンガンを中心に練習させろ。ここのところ演習中に死ぬ奴が多い。くれぐれも死なせないように。保護者への言い訳を考えるのも面倒だからな」
「わかりました」
物騒な言葉に二人は顔を見合わせた。少しでも動けば唇が触れそうな距離に、ファイは緊張して息を止めていた。そんなファイに全く気付かず、黒鋼は言った。
「やっぱりな。きっと、催眠術か何かを使って操ってるんだ。記憶操作とかしてるんだろうな、覚えてねぇって事は。廊下で生徒に紛れるんだ。歩けるか?」
「うん」
ファイはやっと地面に降ろされると、そっと黒鋼の後をついて廊下へと移動した。

4.家宅捜索失敗

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4.家宅捜索失敗

黒鋼とファイの家宅捜索は失敗に終わった。ファイのいうとおり、理事長室のカギは侑子の時とは変わっていて、学校に忍び込んだものの理事長室の奥の部屋はおろか、理事長室にさえ入れなかったのだ。そしてそれはもう1週間になろうとしていた。
お昼休みに二人でお弁当を食べながら黒鋼は確信を込めて言った。
「これだけ警備が厳重なんだ、絶対に何かがある!」
しかしファイはまだ心配で、憧れの黒鋼と一緒にお昼を食べるという幸せに浸ることも出来ずにいた。
「先輩、もう諦めましょうよ」
「タメ語で話せ。何回言わせんだ」
「じゃぁ・・。黒鋼君、諦めようよ」
遠慮がちに小さな声でファイが囁いた。顔を真っ赤にしている。
「? お前熱でもあるのか? 真っ赤だぞ。そういや、身体が弱いって言ってたな。大丈夫か?」
「だ、大丈夫。ね、やめよう?」
慌ててファイは答えたが、しかし黒鋼は首を振り、そして叫んだ。
「そうだ、理事長室の掃除がある! 確かうちのクラスが担当だったはずだ」
「でも、掃除しなかったらバレちゃうよ」
ファイはなんとか黒鋼を止めたかった。
「バカ、掃除の時は探るだけだ。後で入れるように細工をしておくんだ」
黒鋼は顔を輝かせた。しかしファイはずっと気になっていたことを口にした。
「思うんだけど、7時間目があるって、確認してからの方がいいんじゃないかな。オレ達が7時間目があると思うのは、チャイムの音を聞いたからだけだし」
「じゃぁどうするんだ?」
ファイは、少し考えてから、言った。
「6時間目をさぼって、その後のみんなの様子を見てたらどうかな? 明日でちょうど一週間たって同じ時間割だし、もし7時間目がないなら、みんな部活や家に向かうじゃない?」
なるほど。黒鋼は頷いた。
「そうだな。どうせもう皆勤賞も取れないし、少しくらいさぼってもいいか」
こうして二人は6時間目をさぼり、皆の様子を観察することにした。



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